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その69の2『やぶれたページの話』

 飛行機では宇宙に帰れないと知り、知恵ちゃんは画用紙を持って部屋に戻ります。知恵ちゃんは再び画用紙と向き合い、どうしたらハッピーエンドにできるのかと悩み始めました。宇宙船もロケットも砂漠にはありません。そこで、せめて星に残してきた友達へ、手紙を送る結末にしてはどうかと考えました。


 「手紙か……」


 とはいえ、男の子が封筒やハガキを持っているとは思えません。お金もないので、街へ行っても買えません。知恵ちゃんは色鉛筆で月を描きながら、別の案を考えることにしました。


 「……そうだ」


 男の子が飛び立てないならば、星の方が迎えにくればいいと知恵ちゃんは案を出しました。男の子の住んでいた星の造形を思い出しながら、それを空いっぱいの大きさに浮かべてみます。


 「……」


 星に残してきた友達が男の子に「むかえに来た」と告げ、男の子は地球で出会った人にお別れをします。男の子を乗せた星は元の場所へと戻っていき、それで物語は終わりです。お話の結末を描き終わり、知恵ちゃんは画用紙を持ち上げてながめています。


 「うん」


 自分で見た限りでは申し分ない出来ですが、亜理紗ちゃんから指摘を受けると恥ずかしいので、知恵ちゃんは先に絵をお母さんに見てもらうことにしました。1階へと絵を持って行き、絵本の最後のページだと説明した上で、絵の出来栄えをお母さんに見てもらいます。


 「お母さん。これ、どう?」

 「……」


 描かれている低い砂漠の上に、非常に大きな丸いものが迫ってきている絵です。知恵ちゃんが広げている絵に目を近づけたり、顔を引いたりしながら悩んだ末、お母さんは遠慮がちな声で言いました。


 「……世界の終わり?」

 「そういうお話じゃないんだけど」


 このままでは星が激突して世界が終わってしまうと判明し、知恵ちゃんは文字を足して危険を回避しようと試みます。色鉛筆の塗りがうすいところを探して、そこに黒い鉛筆で補足説明を加えました。


 『星はぶつかってこわれないです』


 これで問題ないとして、知恵ちゃんは自信をもってお母さんに画用紙を見せます。星に残してきた友達は「むかえに来た」と言い、男の子は「帰る」と言い、その横には『星はぶつかってこわれないです』と書かれています。辻褄はあっているので、お母さんも困惑しつつOKを出しました。


 「いいんじゃない?」

 「うん」


 それからも知恵ちゃんは絵を何度も見て問題がないか確認し、色鉛筆で色を濃く塗りなおしたり、描かれている物の輪郭を整えたりしました。次の日の朝、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家の前でランドセルを開いてしゃがみ込み、お互いに描いてきた絵を見せあうことにしました。


 「私の、これ」

 「どれ?」


 亜理紗ちゃんは知恵ちゃんから絵を受け取り、太陽の光に当てながら見つめています。うなったり絵の角度を変えてみたりしつつ、亜理紗ちゃんから最終的な評価が下されました。


 「その手があったか……」

 「他の手がなかったから、こうなったんだけど……」

 「ちーちゃんのは、きっと正解だと思う」


 これが恐らくは、本来の絵本の終わり方だろうと亜理紗ちゃんは納得しました。絵を知恵ちゃんに返すと、亜理紗ちゃんは学校へ行こうと立ち上がります。


 「……あれ?アリサちゃんのは?」

 「でも、ちーちゃんのが、きっと正解だし」


 亜理紗ちゃんも描いてはいるらしいのですが、知恵ちゃんの描いた最後のページに感銘を受けたので、自分のは見せなくていいと考えました。でも、知恵ちゃんの方は亜理紗ちゃんが何を描いたのか気にしています。


 「私のも見る?」

 「うん」


 亜理紗ちゃんがランドセルから画用紙を取り出し、知恵ちゃんに手渡します。4つに折られた紙を広げ、そこに描かれているものを見つめます。


 「アリサちゃん……なにこれ?」

 「ロケットか宇宙船」

 「ロケット出しちゃったんだ……」


 知恵ちゃんが出そうか迷ったロケットを、亜理紗ちゃんは迷うことなく登場させていました。ロケットに乗って帰っていく横には、『男の子はロケットで飛んでいきます』と文字で書かれています。知恵ちゃんが画用紙を見つめていると、亜理紗ちゃんは続けて別の紙を差し出しました。


 「はい」

 「なにこれ?」

 「最後のページの次」

 「……次?」


                                 その69の3へ続く

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