その68の2『箱の話』
「キノコのチョコ、あと何個くらい?」
「5個」
こんな高級お菓子をもらってしまったら、もう他のことは手につきません。知恵ちゃんはキノコ型チョコの残り数を気にしていて、箱の中身を数えた亜理紗ちゃんが答えをくれます。
「最後の1個は、ちーちゃんにあげる」
「いいの?」
順番に1つずつ食べていった末、最後に残った1個は知恵ちゃんがもらうことになりました。甘くなった口を牛乳で休めつつ、亜理紗ちゃんは次にタケノコの形のチョコを開けようと手に取ります。
「開けるの、私がやってもいい?」
「いいよ」
先程は亜理紗ちゃんが箱を開けたので、今度は知恵ちゃんがお菓子の箱を開きます。タケノコ型のチョコが入っている箱の形はキノコのチョコと同じで、つまみを上に持ち上げると切れ目にそってフタが開いていきます。タケノコのチョコもフタの裏にはお菓子のマメ知識が書かれてあって、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはお菓子を食べる前に心して読んでいました。
「こっちはクッキーなんだ」
キノコのクキの部分はクラッカーで、タケノコの内部はクッキーでできていると解説されています。そんな知恵ちゃんの言葉を受けて、亜理紗ちゃんは気になったことを口に出しました。
「クッキーとクラッカーって、何が違うの?」
「……わかんない」
「……ビスケットは違うの?」
「……食べてみよう」
議論するにも情報が足りないと見て、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはタケノコのお菓子を口に入れてみました。タケノコのお菓子に使われているクッキーはサクサクとした食感で、その上にコーティングされたチョコもクッキーの粉を受けてパサパサしています。それに比べて、キノコのお菓子のクラッカーは甘さがなく、カリカリとした軽い歯ごたえでした。
「ちーちゃん。解った。クッキーは甘くて重い。クラッカーは甘くなくて軽い」
「うん」
亜理紗ちゃんの感想に同意しつつ、知恵ちゃんはタケノコのチョコを口に運びます。タケノコのチョコの方が知恵ちゃんの好みにはあっており、亜理紗ちゃんも気に入った様子で次々と口に入れていきます。こちらも最後に1個だけ余り、それは亜理紗ちゃんがもらいました。
「ちーちゃん。もうキノコもタケノコもなくなった」
「もっと食べたかった……」
あまりに夢中でお菓子を食べていたので、亜理紗ちゃんはキノコのチョコとタケノコのチョコがないことを残念がっています。このままでは最後の1箱もすぐに食べ終わってしまうと考え、ひとまず別のことをしてクールダウンしようと試みます。
「はい。これ。私、タケノコの箱で遊ぶね」
「……?」
キノコのチョコが入っていた空箱を亜理紗ちゃんから渡され、知恵ちゃんも目の前のテーブルに置きます。うすくて四角い箱のフタを開けて、その中に亜理紗ちゃんは両手をいれます。
「こうしたら、パソコンみたいじゃない?」
「ちょっと小さくない?」
亜理紗ちゃんはタケノコのチョコが入っていた箱の中で指を動かし、ノートパソコンを動かしている人の動きをマネています。そうして、2人は仕事をしている人ごっこを始めました。
「あー……ちーちゃんさん。ちーちゃんさん。キノコはどうですか?」
「キノコはいいです」
「タケノコは今日、100個も売れてます」
「たぶん、キノコも同じくらい売れています」
箱の中にあるプラスチックの容器をパシャパシャと指で叩きながら、亜理紗ちゃんはテレビで見た一場面をマネしてみました。
「タケノコは売り切れで絶好調です」
「そうですか」
「キノコの景気は、どうですか?」
「キノコのケーキは……食べたくないです」
その68の3へ続く






