その66の1『パズルの話』
「アリサちゃん。やめようよ……」
「私、やるよ。見てて」
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは駄菓子屋さんでお菓子を買い、公園の水道で手を洗ってからベンチで広げ始めました。そこでふと、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが買ってきた物の組み合わせと、やろうとしている事の不自然さに気がつきました。
「だって、ちーちゃん。チョコとガムをいっぺんに食べると、ガムが消えるって聞いたんだもん」
「絶対に美味しくないから、よくないよ……」
こうして興味を持ってしまうと、なかなか亜理紗ちゃんは制止してもやめてくれません。一口サイズのチョコとガムを同時に口に入れ、しかめっ面のまま亜理紗ちゃんは口を動かしていました。
口に入れてしまったものは仕方ないので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんをとめるのは諦めて、グミの入っている袋を開けました。グミは色とりどりのものが入っていて、色によって風味も異なります。そうしてグミの色を見ている知恵ちゃんの隣では、亜理紗ちゃんは渋い顔をしています。
「むむむ……」
「……おいしくないでしょ?」
「でも、だんだん消えてきた気がする……」
チョコと、サイダー味のガムは食べ合わせが非常に悪く、さらに亜理紗ちゃんの買ったチョコにはウエハースが入っています。とろけたチョコと、さわやかなサイダー味、それにウエハースのジャリジャリ感がミックスされ、亜理紗ちゃんの口の中はオモチャ箱をひっくり返したような状態です。
「……ちーちゃん!見て!」
しばらくすると、亜理紗ちゃんが口を開けたまま舌を出して、知恵ちゃんに口の中の様子を見せました。口の中に入れたチョコもガムも、キレイになくなっています。亜理紗ちゃんの手には、ガムとチョコの包み紙だけが残されていました。
「アリサちゃん……ガム、飲んだ?」
「飲んでないよ。ちーちゃんもやる?」
「私はやらないけど……」
知恵ちゃんはお菓子の味を重んじる子どもなので、決して危険な橋は渡りません。でも、チョコが実際に消えたのを亜理紗ちゃんに見せてもらったので、お礼としてグミをいくつかあげることにしました。
「どれか食べる?」
「いいの?どれが多い?」
「ぶどうの紫」
「ぶどう、ちょうだい」
知恵ちゃんは紫色のグミを転がし出して、亜理紗ちゃんの手にあるガムの包み紙へと4つ乗せました。グミの色の配分は大きく偏っており、ぶどうのグミは袋の中のの半分をしめています。亜理紗ちゃんにあげたとしても、まだまだ紫のグミは多く残っていました。
「ありがとう」
「うん……」
知恵ちゃんが手元のグミの袋へと目線を動かすと、その後すぐに亜理紗ちゃんの声が短く聞こえてきました。
「……あっ」
「……?」
知恵ちゃんの視線が上がった時には既に、亜理紗ちゃんの手にあったグミはなくなっていました。4つもあったのに食べ終わってしまったのかと、知恵ちゃんは目を細めています。
「くいしんぼうなんだ……」
「ちがうの……消えたの」
「……?」
言われてみれば、亜理紗ちゃんの口にグミが入っている様子はありません。亜理紗ちゃんのほお袋にもふくらみはなく、本当にグミはどこかへ行ってしまったようです。そこで、知恵ちゃんは手元のに違和感をおぼえ、そちらへと顔向きを戻しました。
「……んん?」
知恵ちゃんが持っている袋の中のグミは増えていて、紫色の比率が元に戻っています。亜理紗ちゃんに渡したグミは消えて、勝手に袋へと戻ってしまった模様です。知恵ちゃんのカバンについているキーホルダーの石が光っていた為、グミが消えてしまったのは石の仕業だろうと2人は察しました。
「ちーちゃん。なんで消えて戻されたんだろう」
「……」
知恵ちゃんは袋の上から紫のグミを押して動かして、密着する形で4つ並べてみます。グミはキラキラと輝きながら消えて、また袋の中に散らばって戻されました。グミが消えてしまった理由に関し、それを見た知恵ちゃんは憶測を述べます。
「色?」
「あ、紫が4つで消えるのかも」
改めて亜理紗ちゃんには紫のグミを3つ渡して、メロンの緑色を1つあげました。すると、今度はグミをあわせても消えることなく、しっかり亜理紗ちゃんの手の包み紙に残りました。
「やっぱり4つで消えるんだ。ちーちゃん。ありがとう」
「気をつけよう」
亜理紗ちゃんにグミを再び渡せたので、知恵ちゃんもブドウのグミを取り出して口へと運びます。その横で、また亜理紗ちゃんが小さく声をもらしました。
「あっ……」
「……?」
亜理紗ちゃんの手には渡したはずのない、少し大きな赤色のグミがあって、知恵ちゃんの持っている袋の中には赤いグミは入っていません。どこから赤いグミを取り出したのか、知恵ちゃんが予想を口に出すより早く、亜理紗ちゃんは目で見た事実を伝えました。
「……紫と緑のグミが合体した」
「……今度は合体したんだ」
その66の2へ続く






