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その65の4『ワカメの話』

 日陰にあるバケツへ近づこうと、亜理紗ちゃんが一歩をふみ出します。それに反応するようにして、バケツの中からは黒い水がにじみ出て、ガタガタと震え始めました。


 「……ちーちゃん!なんか出た!」

 「えっ……」


 バケツからあふれた黒い水はゴムのように伸び、トカゲのような4足となってバケツの下からはい出てきます。その体には石や葉っぱがはりついていて、目や口にも似て動いています。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんから逃げる挙動で、黒いトカゲは家の壁に飛びついて登っていきました。


 「……」


 トカゲの体は手のひらよりも少し大きい程度で、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんに比べると大きくはありません。でも、トカゲ自体あまり見ることがない生き物なので、大きなショックを受けてなかなか2人も動けません。


 「……ちーちゃん。あっち」

 「あっ!」


 知恵ちゃんの家の壁を登って曲がっていった先、そちらにはリビングの窓があります。このままではお母さんが黒いトカゲにビックリしてしまいます。こうしてはいられないとばかり、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは一緒に家の中へと向かいました。


 「……ちーちゃんのお母さん!」

 「……どうしたの?」


 あわててリビングへと入ってきた2人に気づき、お母さんは洗い物をしていた手を止めます。きょろきょろと部屋を見回しながら、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは黒いトカゲを探しています。


 「……お母さん。変なのこなかった?」

 「変なのって?」

 「……」


 ふと違和感を覚えて、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはソファの裏へと視線を動かします。そこには黒いトカゲがはりついていて、顔についた小石を知恵ちゃんたちへ向けていました。


 「わっ!」

 「いた!」


 知恵ちゃんの驚く声にお母さんが目を向けている内、トカゲはドアのすき間をくぐって、ろうかへと出て行ってしまいました。唖然としているお母さんに何かを説明するヒマもなく、2人はトカゲを追って駆け出していきます。


 「トカゲ、どっち行ったかな?」

 「……あっ、モモコ来た」


 あわてた様子の2人の元へ、犬のモモコが走ってきました。くんくんと臭いをかぐと、モモコはお手洗いがある方へと行ってしまいます。そちらにトカゲは向かったのだろうと考え、亜理紗ちゃんたちも急いでついて行きました。


 「あっ、いた!ちーちゃん。あれ」


 ろうかの先にあるお手洗いのドアの前、その暗くなっている場所にトカゲを見つけ、亜理紗ちゃんは指をさしています。ただ、トカゲはろうかの隅に縮こまっていて、手も足も頭も出してはいません。亜理紗ちゃんは近くに立ててあったホウキを借り、その持ち手の部分をのばしてトカゲに触ってみました。


 「……?」


 突然、黒いトカゲの体は小さく分裂し、2匹に増えてしまいました。トカゲは亜理紗ちゃんたちを怖がっているのか、そのまま天井をつたって逃げていきます。すぐにトカゲを追いかけようとしますが、そこで2人は殺虫剤を持ったお母さんとはちあわせしました。


 「どうしたの?知恵。虫でもいたの?」

 「虫じゃないけど」

 「トカゲみたいなのでした……」

 

 亜理紗ちゃんの説明を聞いて悪い虫ではないと解り、お母さんは手にしている殺虫剤を下ろしました。


 「ヤモリじゃないの?悪さしないから、いじめちゃダメだよ」


 そういうお母さんの後ろの壁を、2匹に増えた黒いトカゲが逃げていきます。それが本当にヤモリなのか、知恵ちゃんはお母さんに尋ねます。


 「ヤモリって、分身して増えるの?」

 「増えないと思うけど」

 「トカゲは?」

 「増えない」

 

 そういった知恵ちゃんとお母さんの会話を受け、亜理紗ちゃんは分裂しながら増えていく生き物に目星をつけました。


 「ちーちゃん。あれ、ワカメなんじゃないの……?」

 「ワカメか……」


                               その65の5へ続く


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