その63の3『大爆発の話』
テレビに映っている都会の街並み、高層ビルのてっぺんに1つ乗っているピンク色の丸い物体を亜理紗ちゃんは指さします。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも東京には詳しくありませんが、その存在の異様さは目に見えて明らかです。
『くもり空が広がっております。雨にご注意ください』
アナウンサーの男の人は天気を危ぶんでいますが、見ている方はそれどころではありません。高いビルの上にはまるで、ビックリするほど大きな風船らしきものがドンとして乗っています。それを亜理紗ちゃんは指さしながら、お母さんに呼びかけました。
「お母さん。これ……なにかな?」
「どれ?」
洗い物をする手を止め、キッチンからお母さんがやってきます。画面の中にある亜理紗ちゃんの指し示したものを見つめ、何秒か見た末に答えを出しました。
「鳥じゃない?」
「鳥なの!?」
「それかビルじゃないの?よく見えないけど」
鳥なのでしょうか。亜理紗ちゃんは画面に目を戻します。見るからに鳥ではないものを一瞬だけ目にとらえますが、ニュース番組の映像はスタジオへと返されました。
「あ……」
無機質な作りのニューススタジオで話題が切り替わり、かわいいワンちゃん特集が始まりました。知恵ちゃんは犬特集を楽しく見ています。その横で、亜理紗ちゃんはお母さんと謎の物体について話をしています。
「お母さん……さっきの、ピンクの大きい、丸いやつだよ?」
「マスコットの着ぐるみ?」
「そっちじゃなくて、もっと変なのがあったんだけど」
そうした問答をかわしている内に亜理紗ちゃんは、お母さんにはピンクの物体が見えていないのだと気づきました。テレビの映像は人気スィーツ紹介へと移り変わっていて、それも知恵ちゃんは口を小さく開いたまま見つめています。
「……なんだったんだろう」
亜理紗ちゃんはサンダルをはいて大窓を開き、庭へと出て家の上などを見上げてみます。しかし、どこにもピンク色の大きな物体はなく、都会の天気とも違って家の上空は晴れ渡っていました。家の周りに異変はないとして、亜理紗ちゃんは家の中へと戻ってきました。
「ちーちゃん。あれ、なんだったんだろう」
「解らないけど……東京にはあるんじゃないの?ああいうのが」
「やっぱり東京ってスゴイんだ……」
見果てぬ都会の地を想い、2人は幻想郷を思い浮かべています。そんなに気になるならばと、亜理紗ちゃんのお母さんはテレビを指さして伝えました。
「また明日、見てみれば?」
「明日?」
「いつも、映るの同じ場所だよ」
テレビに映る風景が定点カメラだと知り、亜理紗ちゃんは明日こそは正体を明らかにすると意気込みます。
「そっか!ちーちゃん。明日も、うちに来て」
「どうしたの?」
「何がビルに乗ってたか、ちゃんと確かめるよ」
明日も会う約束をして知恵ちゃんは家に帰り、リビングのソファに腰を下ろしました。かわいいワンちゃん特集で紹介されていた芸をプードルのモモコに試してみますが、モモコはいうことを聞かずにじゃれついてくるだけです。ご飯を作っているお母さんが、ポップコーンの感想を知恵ちゃんに尋ねています。
「知恵。ポップコーン、どうだった?」
「ちょっとビックリしたけど……おいしかった。ねぇ、お母さん。東京って、どんなところ?」
「ん?」
亜理紗ちゃんと一緒に見た巨大なピンク色の物体が、本当に東京では普通にあるものなのかと不思議に思い、知恵ちゃんは東京についてお母さんに質問してみました。やや困ったような表情をしつつ、しどろもどろにお母さんは教えてくれます。
「どんなところって、東京は……」
「……」
「ばななと、ひよこが有名なはずだけど」
「……」
想像した以上に東京がファンシーな街だと解り、それだけで知恵ちゃんは少し安心しました。
その63の4へ続く






