その63の1『大爆発の話』
「今日、ちーちゃん、遊びに来れる?」
「いいけど」
学校からの帰り道、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを家に誘いました。こうして自分から家に呼ぶ時というのは、おおよそ何かある時のはずで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの家にある用意について話をうながしました。
「なにかあるの?」
「今日はね。うちで、ポップコーンを作るんだ」
「……ポップコーン?」
知恵ちゃんの知っているポップコーンといえば、スーパーでポテトチップスなどのように売られているものや、映画館でバケツのような入れ物に盛られているものです。それを家で作ると聞いても、どのように作るのか想像もつきません。
「あれって、うちで作れるの?」
「作れるみたいだけど、私もまだ見たことないんだ」
その後も亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはポップコーンの作り方について議論しますが、そもそもコーンが何かを知らないので材料すら見当がつきません。結局は白いお花を油であげたものといった、見た目だけを頼りにした結論に行き着きました。
「じゃあ、あとうちに来てね」
「うん」
知恵ちゃんは家に帰り、部屋にランドセルを置くとお母さんに声をかけます。ポップコーン作りが楽しみな知恵ちゃんは、やや浮足立ってお母さんにポップコーンの話をしています。
「お母さん。アリサちゃんのうちで、ポップコーン作るって」
「へえ、ポップコーン作るんだ。ビックリしてきなさい」
「……え?」
ポップコーンの話題からの、料理をするに際しては出てこないビックリという言葉を受け、何についてビックリするのかと知恵ちゃんは目を丸くしています。それを知恵ちゃんはお母さんに質問してみますが、もうヒントすら教えてくれません。まるでお化けを見にでも行くような足取りで、知恵ちゃんはポップコーンのことばかり考えながら亜理紗ちゃんの家に向かいました。
「おじゃまします……」
「ちーちゃん……どうしたの?」
「な……なんでもないけど」
インターホンを鳴らすと、亜理紗ちゃんと亜理紗ちゃんのお母さんが出迎えてくれました。知恵ちゃんは丁寧な動作でクツを脱ぐと、ポップコーンのビックリにおびえながら、亜理紗ちゃんの後ろにかくれつつリビングへとついて行きました。
「2人とも、ちょっとポップコーンの準備するから、そっちで待ってて」
「お母さん。私も見たいんだけど」
「あぶないから、作るのは見せられないよ」
「あぶないんだ!」
「……やっぱり危ないんだ」
準備の様子を亜理紗ちゃんは見たいと言いますが、お母さんはフライパンの中を見せてはくれません。すると、危険な実験でも始まるのではないかと、知恵ちゃんもハラハラしてしまいます。お母さんがフライパンに材料を入れて数分後、風船が割れたようなポンという音が聞こえてきました。
「……お母さん。なにしてるの?」
「ポップコーン作り始めたから、もうちょっと待っててね」
徐々にポンポンという音は増えていき、それは雨足が強まるがごとく騒がしく鳴り響きました。お母さんはフタをしたフライパンを揺すっています。その様子を亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、興味深そうにリビングのソファから見つめています。
「味は?なにがいい?」
「……きゃ……キャラメル」
「それは用意してない……」
亜理紗ちゃんのオーダーには応えられず、ポップコーンの味付けは無難にバターとなりました。お母さんがフライパンをテーブルへと運び、わんさか入っているポップコーンを亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはのぞきます。お店で売っているようなポップコーンができあがっているのを見て、亜理紗ちゃんは楽しそうに声をあげました。
「すごい!できてる!」
「これに入れてあげる」
大きめの紙コップにポップコーンを入れ、お母さんは1つずつ手渡しました。フライパンいっぱいにできているので、それでもまだまだポップコーンはあります。ほんのりバターの味がする温かいポップコーンをかんで、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは歯ごたえを確かめます。
「おいしい。お母さん。これ、なにから作ってるの?」
「コーンだよ。とうもろこし。あっためて破裂させたの」
「そっか!とうもろこしがハジけて爆発したんだ!」
「あばれんぼうのトウモロコシだ……」
そうお母さんに教えてもらってみると、コップの底の方にはトウモロコシのツブが残っており、それを亜理紗ちゃんは口に入れててみます。それは、かんでも潰せないほど硬く、仕方なく亜理紗ちゃんはツブをアメのようになめ続けていました。
「ちーちゃん。はじけれなかった、調子の悪いとうもろこしがいた……」
「ノリが悪いみたいに言わないであげて……」
その63の2へ続く






