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その62の3『知らない世界の話』

 凛ちゃんは知恵ちゃんのことは好きですが、知恵ちゃんの友達の百合ちゃんには口で勝てないので、会えば気が引けてしまうと自白しています。でも、はた目に見た限りでは、百合ちゃんと凛ちゃんも仲はよさそうだと亜理紗ちゃんは言っています。


 「百合ちゃんは、リンリンのこと好きそうだけど」

 「そ……え?そうなの?」

 

 イヤな気はしないといった表情をしている凛ちゃんですが、からかうのが好きなだけなのではないかと知恵ちゃんはいぶかしげです。神社で遊ぶ礼儀として、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはお母さんにもらったお金をお賽銭箱に入れてきます。その後、2人は凛ちゃんの待つ場所へと戻ってきました。


 3人は当初の目的通り、願いをかなえてくれるというケセランパサランを探し始めました。亜理紗ちゃんは神社の敷地内にある大木の根元をのぞき、何か見つけたといった声で凛ちゃんと知恵ちゃんを呼びます。


 「ねえ、こっちきて」

 「いた?ケセランパサラン」


 亜理紗ちゃんが指さした大木の根のすき間には、白いキノコが生えていました。それはスーパーマーケットなどでも見かけないような、名前も知らないキレイなキノコです。見つけたのがケセランパサランではないと知り、すぐに凛ちゃんは前かがみの姿勢を正しました。


 「ただのキノコじゃないの?」

 「すごくない?自然のキノコ」


 野生のキノコを見つけて亜理紗ちゃんは嬉しそうですが、凛ちゃんは早くケセランパサランを探したいといった様子で視線をそらします。それを見計らうようにしてキノコは動き出し、木の根の下へと逃げ込んでしまいました。


 「あ……リンリン!キノコ!」

 「……?」


 知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはキノコの歩く姿を見ましたが、凛ちゃんが目線を戻した時には、すでにキノコは姿を消していました。いなくなったキノコの行方について、凛ちゃんは何気ない口ぶりで亜理紗ちゃんに尋ねます。


 「あなた……キノコ、食べた?」

 「食べてないよ」


 凛ちゃんはキノコのあった場所を怪しそうに観察しますが、きっと亜理紗ちゃんが動かしたのだろうとして、すぐに興味を他へと移しました。ケセランパサランは高いところにいるのではないかと考え、凛ちゃんは木の枝のすき間を見上げました。


 「なんか見つけたら教えてね。キノコ以外で」

 

 そう言いながら木漏れ日に目を細めている凛ちゃんの足元をぬって、そそくさと何かが走っていきます。数匹は知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの前を通り抜けていきますが、1匹だけは立ち止まって凛ちゃんを見上げていました。それはリスのようでタヌキにも似ている、白くて小さな見慣れない動物です。


 「リンリン。なんか下にいるんだけど」

 「……?」


 亜理紗ちゃんの声を受けて凛ちゃんは視線を降ろしますが、見知らぬ生き物は草むらへと入っていってしまいました。またしても不思議なものを見逃してしまい、むしろ凛ちゃんは何がいたのかと怖くなってしまいます。


 「えっ……虫?虫じゃないわよね?」

 「虫じゃなかったよ」

 「うん。虫ではなかった」

 「じゃ……じゃあ、いいけど」


 凛ちゃんは虫が苦手なので、ひとまず虫ではないと知って安心しています。巨木の近くにはケセランパサランがいないと考え、凛ちゃんは神社の横にある少し暗い場所へ顔を向けます。


 「見つけにくいところにいそうよね」

 「……あ」


 暗がりに白い綿を探している凛ちゃんの後ろで、亜理紗ちゃんは空を見上げています。やや高い場所には雲と見間違えそうな白い物体があり、ぽわぽわと揺らぎながら漂っていました。知恵ちゃんも一緒に白い物体を見つめていますが、それは知恵ちゃんたちの体よりも大きくて、持ってきたビンには入りそうにありません。


 「リンリン。上になんかあるけど」

 「……なに?」


 凛ちゃんが空をあおぎます。しかし、その瞬間にも白い物体はパッとはじけて消えてしまいました。それからも、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは不思議なものを見つけるたびに凛ちゃんへと教えるのですが、どれも凛ちゃんが目を向けると逃げるようにして姿を消してしまいます。

 

 「う~ん……どこにもいないわね」


 ケセランパサランを探しに行こうと言い出したのは凛ちゃんでしたが、こうした草木の多い場所は実のところ好きではありません。数十分してもケセランパサランが見つからず、そろそろ帰ろうと凛ちゃんは知恵ちゃんたちに相談します。


 「……もう帰ろっか?何もいないし」

 「私と、ちーちゃんは、けっこう見つけたけど……」

 「けっこういたよね……」

 

 カラっぽのビンにフタをして、凛ちゃんは一足先に草むらから出ていきました。凛ちゃんの揺れる後ろ髪には、白いほこりのようなものがついています。それを知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは、消えてしまわないようにと、静かにながめていました。


                                 その63へ続く

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