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その61の4『あわてんぼうの話』

 木々を抜けた先には見渡す限りの星空が広がり、上にも下にも星たちが輝いています。星空の奥には石の橋がかけられていて、橋を渡った先には小島のような陸地が浮かんでいます。よく見てみれば、足元に広がっている星空は、湖に映った空の色だと解ります。


 「あ……あそこにいる」


 湖の中央にある小島へ、白い毛並みの生き物は跳ねるように走っていきます。その姿を亜理紗ちゃんは指さしました。小島には白い生き物と似た格好をした、黒い毛や茶色い毛色の仲間が待っています。白い毛並みの生き物は小島まで移動した後、落とし物をしたことに気づいて戻ってきました。


 「また欲しそうにしてる」

 「もう落とさないでね」


 知恵ちゃんが青い石を返すと、白い生き物は両手で受け取って小島へと駆けていきました。そして、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんが来るのを待つようにして、じっと振り返って2人を見つめていました。小島にはテーブルのような形の平たい石があり、その上に木の実のカラを削って作った器が置かれています。何を始めるのか、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに疑問を投げました。


 「あそこで、なにするんだろう」

 「う~ん……行ってみる?」


 ここまで来たのだからと、亜理紗ちゃんは白い生き物を追って橋を渡ります。足元は暗いものの、星の光が湖に反射していて、足を踏み外して水に落ちる心配はありません。その場に残されるのも嫌なので、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんを追って橋の向こうへと進みます。


 黒や茶色の毛並みの生き物は亜理紗ちゃんと知恵ちゃんを目に映しますが、まるで意見を送るようにして、白い生き物へ向けてキュウと鳴き声を発しました。白い生き物は手に持っていた青い石をポンと、湖の中へ投げ込んでしまいます。


 「……?」


 生き物たちは石が落ちた場所へ顔を向けています。落っこちた石が湖に広げた小さな波から、次第に青白い光が広がっていきます。見る見る間に湖はサラサラとした光を帯びて、まるで青空を沈めたように色づいて澄み渡りました。湖の青空は夜空にも反射し、星の点々と光る不思議な青空が生み出されました。


 黒い毛並みの生き物も茶色い生き物も、石の上に腰を乗せたまま、森の緑や湖、空に昇った日の光を楽しんでいます。飲み物はありませんが、石の上の置いてある器には水と花が入っていて、甘くやわらかな香りが浮かんでいきます。


 白い毛波の生き物は余分に2つ器を持ってきて、平たい石の上に並べました。2つの器には少量の水と、それぞれに赤い花と白い花が入れられており、その用意が終えた生き物は自分の席へと戻りました。


 「ちーちゃん。すわる?」

 「うん」


 席を用意してもらったので、2人は好きな色の花を選んで、石の上に座りました。黒い毛並みの生き物は小さな鳴き声で歌っていて、白と茶色の生き物は日の光に体をだらけさせています。それをぼーっと見ながら、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに問いかけました。


 「……みんな、なにしてるんだろう」

 「……」


 ただ、みんなで集まって、陽の光をあびて、おだやかな時を過ごします。ピクニックかもしれませんし、ひなたぼっこかもしれません。白い毛並みの生き物が持ってきた青空を使って、夜の一時を優雅に彩っていきます。そんな様子をながめつつ、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに答えを返しました。


 「たぶん……なんにもしてないんじゃない?」

 「なにもしてないの?」

 「ちーちゃんと私も、そういう時あるし……」


 こうして会話もせず、達成すべき目的もなく、ただ集まって一緒にいます。ただ、そんな時間も長くは続かず、15分ほどで湖からは青空が消え、世界は夜闇を取り戻しました。


 青空が見えなくなると、黒い生き物と茶色い生き物は知恵ちゃんたちに一声かけて、忙しない足取りで森へと帰っていきました。白い毛並みの生き物も、あとかたずけをしてから石の橋を渡っていきます。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんも、白い生き物のあとについて家へと戻りました。


 「あ……働き始めた」


 白い毛並みの生き物を見て、知恵ちゃんが言います。家に戻った白い生き物は、せき止めていた水の流れを開いて、せわしなく木の実を洗い始めました。きっと忙しい時間の中で、わずかな時間を見つけて、みんなでくつろいだのだろうと見て、白い生き物の仕事をジャマしないよう知恵ちゃんたちは壁の横穴へ向かいました。


 「ありがとうね」

 「ありがとう」


 白い毛並みの生き物は、2人の声に鳴き声だけを返しました。それを耳にしてから知恵ちゃんたちは小さな横穴を通り、亜理紗ちゃんの家の庭へと戻ってきました。こちらの世界の空はキレイな青色で、美しく雲が散らばっています。まだ学校から帰ってきて、そんなには時間がたっていません。


 「ちーちゃん。今日、宿題ある?」

 「算数のプリントがある……」


 亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、宿題にかかる時間を頭の中で計算します。宿題は早めに始めた方が、早く終わるに違いありません。でも、今日は太陽も元気で、とてもいい天気です。これを逃すのも惜しいとばかり、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんへと声をかけました。


 「もうちょっと、一緒にいていい?」

 「うん。いいよ」


                               

                                 その62へ続く

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