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その61の3『あわてんぼうの話』

 「あ……ちーちゃん」

 「……?」


 懐中電灯を顔に当てながら振り向き、暗がりの中で亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに確認します。


 「青い石、持ったっけ?」

 「持ったよ」

 「ありがとう。また忘れてくるところだった……」


 暗闇の中にあっても、知恵ちゃんの持っている青い石は空色の輝きを保っています。そのまばゆい光の先へ視線を向けると、2人のいる場所の上には小さな青空が広がりました。


 「……あれ?」


 上に貼りついている青空を見ながら、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの手にある石を手でおおってみます。亜理紗ちゃんの手に隠されると、再び世界は暗く閉ざされました。


 「……ちーちゃん。これ、青空のカタマリだ」

 「なんなの?」

 「これがあると、青空になる」


 亜理紗ちゃんが手をのけると、再び石が青空を広げます。しかし、青空を作るたびに石はキラキラと光のわたを飛ばし、じんわりとじんわりと小さくなっていきます。石がなくなってしまわないよう、知恵ちゃんは両手で光をおおい隠しました。


 「返しに行こう」


 そう言うと、再び屈んだ姿勢のまま前を向いて、亜理紗ちゃんは懐中電灯の光を揺らします。道の先には赤い光が見えます。せまい道から身を乗り出すと、木を組んで作られた薄暗い部屋の中へと到着しました。チラチラと点滅する灯りの中、亜理紗ちゃんは部屋にあるものへと目を向けました。


 「あの動物の家かな?」

 「う~ん……」


 部屋に置いてある石の上にはガラスのビンがあって、ビンには炎のように光る石が入っていました。他にも、ベッド代わりに使われていそうなワラの山や、チョロチョロと水の流れ続けているツツなどがあります。ドアも少しだけ開いたままになっていて、青い石を落としていった生き物はあわてんぼうなのだと察しがつきました。


 「……外に出てみる?」

 「うん」


 亜理紗ちゃんがドアを開きます。ドアの外には遠くまで広がる灰色の草原と、キラキラと星の流れる夜空がありました。亜理紗ちゃんが視線を下げると、そこには石を落としていった白い毛並みの生き物がいました。


 「……」


 白い生き物も亜理紗ちゃんたちを見てビックリしたのか、大きな目をうるうるさせながら震えています。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんも善意からとはいえ、白い生き物の家に勝手に入ってしまったので、やや都合の悪そうな表情で立ちすくんでいました。


 「……そうだ。ちーちゃん。それ」

 「あ……」


 知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに言われて、両手のひらに入れていた青色の石を生き物の前に置きました。空の色を放つ石に白い生き物は顔を近づけ、自分のものであることを確かめるようにして匂いを探っています。その後、生き物は青い石を口の中へと入れてしまいました。


 「あ……食べちゃった」


 亜理紗ちゃんには白い生き物が石を食べたように見えましたが、石を口に含んだ生き物のほほはぷっくりとふくらんでいて、その後も飲み込む気配はありません。石を取り戻したことで白い生き物は警戒がとかれ、亜理紗ちゃんたちの足元を通って部屋の中に入りました。


 2人が見つめているのも気にせず、白い生き物は流れる水を止めたり、赤く光る石にフタをしたりしています。片付けや後始末を終えて部屋の外へ出ると、生き物は知恵ちゃんたちの顔を見つめて立ち止まりました。大きな足で地面の石をタップし、うれしそうな動きでピョコピョコと家の横側へ入っていきました。


 「……ちーちゃん。行く?」

 「う……うん」


 青い石を何に使うのか気になるので、知恵ちゃんたちは白い生き物のあとを追ってみることにしました。


 「あ……ちーちゃん。また落としてる……」

 「しょうがない子なの……」

 

 その途中、またしても青色の石が落とされているのを見つけ、知恵ちゃんは輝きをおさえ込むようにして持ち上げました。口に入れられたせいで、ちょっとしめっています。石の中に浮かぶ青空も、どこか水気を含んでユラユラと輝いていました。


                             その61の4へ続く


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