その2『雨の話』
異世界へ迷い込んだ次の日、知恵ちゃんは学校の図書室にいました。彼女は普段から本を読む方ではないのですが、図鑑や写真集をながめる趣味があります。今日は動物の図鑑を棚から引っ張り出し、目当てのページを探すようにしてめくっていきます。
「ちーちゃん。何してるの?」
「昨日の赤い動物を探してるんだけど」
亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを探してやってきました。二人は別々のクラスなので、授業が終わると亜理紗ちゃんが知恵ちゃんを迎えにきます。2人ともクラスに別の友達はいますが、通学路は反対方向となっており、みんなとは学校でお別れとなってしまいます。
「あれはワンちゃんなのー?ちーちゃん」
「犬さんじゃないんじゃないの?」
「じゃあ、ネコちゃんなのー?ちーちゃん」
「猫ちゃんじゃないと思うけど」
二人の住む町はビルの立ち並ぶ都会ではありませんが、山と畑に囲まれる程の田舎でもない為、二人は野生のタヌキやキツネを見たことがありません。以前に動物園へ遊びに行った時も、あそこまで真っ赤な毛並みの動物は見ませんでした。
「帰ろう。ちーちゃん」
「うん。そうだ……これ、あげる」
「やった!フタだ!ちーちゃん、大好き!」
知恵ちゃんはポケットからペットボトルのフタを取り出して、それを亜理紗ちゃんにあげました。それは青い色をしたフタで、よくミネラルウォーターについているものです。亜理紗ちゃんはペットボトルのフタをコレクションしているのですが、家では水道水しか飲まないので手に入らないのです。
2人の家は学校から徒歩5分の場所にあり、その道筋にも幼稚園や公園、歯医者さんなどがあります。もう少しだけ遠くに行けば、おじいさんとおばあさんの夫婦が経営している駄菓子屋さんもあり、2人は家に帰ると一緒にお菓子を買いに行きました。
「これ、見たことないやつだ。ちーちゃん、食べてみる?」
「1個、交換しよ」
亜理紗ちゃんは見た事のないお菓子を見つけると、すぐに買って食べてみたくなる子どもです。一方で、知恵ちゃんは気に入ったものを見つけると、同じものをずっと愛好する子どもです。亜理紗ちゃんは自分の買った舌が青くなるガムと、知恵ちゃんの買ったモチのようなグミを一つずつ交換しました。
「ちーちゃん。今日は、あれは?」
「ランドセルにつけてたけど、なくすとダメだって言われたから家にあるけど」
「そっか」
亜理紗ちゃんも知恵ちゃんも、昨日の出来事はキーホルダーの石があったから起きたのだと、なんとなく勘づいていました。しかし、今日は不思議な世界よりも、お菓子のほうが大切でした。小さな公園にあるベンチから見える小さな景色を見ながらお菓子を楽しむと、二人は夕焼けがやってくる前に家へと帰りました。