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その61の1『あわてんぼうの話』

 「ごめん。ちょっと遅れた……」

 「どうしたの?」


 いつも学校へ行く前には必ず、亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家へ迎えにやって来ます。しかし、今日の亜理紗ちゃんは普段よりも来るのが5分ほど遅く、やや忙しそうに駆け足で家から出てきました。何かあったのかと、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに聞いています。


 「なかなか教科書が見つからなかった……」

 「なんの教科書?」

 「社会」


 亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは同学年でクラスが違うので、もしも忘れものをしてしまっても休み時間のうちに貸し借りをすれば間に合います。ただ、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの教室へ行くのがはずかしいので、なるべく忘れ物はしないよう登校前に確認をすませています。


 「ちーちゃん。まだ時間、大丈夫?」

 「ちょっと遅れても、遅刻する時間じゃないし」


 知恵ちゃんが家の玄関にある時計を見てみるも、まだまだ始業ベルが鳴るまでには時間があります。それに、知恵ちゃんたちの家は学校から非常に近いので、入学から今に至るまで遅刻したことはありませんでした。


 意識して速足になるでもなく、通常通りの歩幅で登校します。学校へ着いても十分に時間は余っていて、亜理紗ちゃんは学校の時計を確認して安心しました。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは教室の前で別れ、それぞれ自分の教室へと入っていきます。


 「おはよう。今日、少し遅かった?」

 「うん。忘れ物しそうになった。でも、ちゃんと気づいた」


 ランドセルの内側に貼ってある時間割りを見つつ、知恵ちゃんは教科書を机に入れていきます。そうしていると、先に学校へ来ていた桜ちゃんが知恵ちゃんに声をかけました。プリントも教科書も文房具も全てそろっており、知恵ちゃんは問題ないといった顔つきで桜ちゃんに返事をします。少し遅れて百合ちゃんもやってきて、宿題の話を知恵ちゃんに振りました。


 「プリント、忘れたかと思ってビックリした~」

 「あったの?」

 「あったよ~」


 今日は算数の授業で宿題が出ている為、知恵ちゃんは百合ちゃんとプリントを見せ合って答えあわせをしています。それを横で見ながらも、桜ちゃんはプリントを持ってきません。なので、忘れたのではないかと知恵ちゃんは気にしています。


 「桜ちゃんのプリントは?」

 「私、宿題はやってあればいいと思ってるから、答えあわせは大丈夫」


 プリントはやってあることが重要で正解率は問わないと言っていますが、桜ちゃんはクラスの中でも成績は悪くない方なので、先生に怒られたことはありません。知恵ちゃんと百合ちゃんのプリントもおおむね回答はあっているのが解ったので、あとはなくさないように教科書へとはさんで机にしまいました。


 「……ちーちゃん。ちょっといい?」

 「……?」


 学校のチャイムがなる5分前になって、知恵ちゃんの教室に亜理紗ちゃんがやってきました。申し訳なさそうに隠れつつも、教室のドアの近くから知恵ちゃんに呼び掛けています。知恵ちゃんたちは教室から出て話を聞いてみました。

 

 「忘れ物してきちゃった……できれば貸してちょうだい」

 「何を?」

 「ふでばこ」

 「文房具、全部?」

 「全部……」


 社会の教科書を探すことに気を取られて、亜理紗ちゃんは筆箱をまるごと家に置いてきてしまいました。最低限、消しゴムとエンピツがあれば授業には足りるので、知恵ちゃんは自分の筆箱から消しゴムとエンピツを取り出して貸し出します。


 「はい」

 「ありがとう」

 「……知恵、消しゴム2つも持って歩いてるの?」

 「前になくなって困ったから……」

 

 桜ちゃんは知恵ちゃんが予備の消しゴムを持っていることに感心しましたが、マッチ箱ほどもある大きな2つの消しゴムが、小さな筆箱を圧迫していた事実に驚いています。亜理紗ちゃんは深々と頭を下げ、始業のベルが鳴る前に急いで教室へと戻りました。その一連のやり取りをうかがい、桜ちゃんは忘れ物について知恵ちゃんへと結論を述べました。


 「やっぱり、学校に全置きしておいて正解だった」

 「それもどうかと思うの……」


                               その61の2へ続く

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