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その60の4『神々の宴の話』

 初詣に出かけるに際してジャンバーや手袋を用意しながらも、知恵ちゃんは和室の神棚を見上げました。そこには小さな鳥らしき生き物が乗っていて、でも通学路で見かけるような普通の鳥ではありません。羽毛は赤く照り、その輪郭は燃えるように輝いていました。


 「えっと……こんばんは」

 「こんばんは」


 知恵ちゃんが鳥に声をかけると、鳥は低い声で返事をしました。悪いものがいないか探すかのようにして、鳥は部屋の中を見回しています。仕事のジャマをしてはいけないと見て、知恵ちゃんはお父さんの元へ戻りました。


 「知恵。アリサちゃん。起きてるって」

 「なんで解ったの?」

 「メールで聞いた」


 知恵ちゃんがお父さんやお母さんと家から出ると、夜中だというのに空は金色に輝いていました。長い雲が川の流れにも似て動き、雲の上には大きい体をした鬼らしき姿や、巨大な野菜の姿をしたものなどが乗っています。雲の流れをコントロールしながら、様々な色の龍も飛んでいきます。それを見ていると隣の家の玄関が開き、防寒着を着こんだ亜理紗ちゃんが出てきました。


 「あ、ちーちゃん。起きれたの?」

 「うん」

 「そっか……あれ?今は……こんばんは?おはよう?」

 「アリサ。あけましておめでとうございますだよ」

 「あけましておめでとうございます……」


 出かける準備をしている内に歳は明けており、亜理紗ちゃんはお父さんに言われて歳初めの挨拶をします。知恵ちゃんが丁寧におじぎやアイサツを返していると、戸締りを終えた知恵ちゃんのお母さんもやってきました。


 「今年も、よろしくお願いします」

 「こちらこそ、よろしくお願いします」


 知恵ちゃんの両親と亜理紗ちゃんの両親も新年のあいさつを交わし、みんなは降り積もっている雪を踏みしめながら近くの神社へ向かいました。神社は家から歩いて3分ほどの距離にあり、歳をまたいですぐということで出かける人の姿も多く見られました。そんな人混みとは別に、どうみても人やペットではない生き物たちが、姿も隠さずおおっぴろげに道路を歩いています。


 「アリサちゃん……あれも、神様なの?」

 「うちにも来てたよ。神様」


 知恵ちゃんの家に牛や鳥の神様が来たのと同様に、亜理紗ちゃんの家にも神様がやってきていました。なお、家を離れる時に知恵ちゃんが車の中をのぞいたところ、ヘルメットをかぶった車の神様も運転席に、ちゃんと座っていました。


 道行く人々は空を見上げたり、神様に挨拶をしたりはしていますが、驚くだとか怖がることはしません。深夜に初詣へ来た事のない知恵ちゃんは、そういうものなのかといった考えで神様を見過ごしていきます。神社の入り口が見えてくると、知恵ちゃんは人の多さにビックリしました。


 「すごい人が多い……」

 「おさいせんしたら、すぐに帰るよ。はい。これ」


 お母さんが知恵ちゃんに100円玉を手渡します。いつも神社に遊びに来る時にもお金をもらうのですが、その時は必ず5円玉です。今日は初詣なので、特別に100円玉をお賽銭します。ぎゅっと100円玉を握りしめて、知恵ちゃんはお父さんたちと一緒に列へと並びます。


 「……」


 人の列は長く、石造りの階段近くまで伸びています。深夜ということもあって子どもの姿は多くみられませんが、小柄な背格好の神様が、お酒らしきものを飲みながら楽しそうにお話をしていました。並び順にそって一歩ずつ進んでいくと、横から誰かの声が聞こえて決ました。


 「いつも遊びに来る子だ」

 「夜に来るのは珍しい」


 知恵ちゃんが人の列から横を見たところ、両脇に立っているコマイヌが、姿勢を低くして知恵ちゃんと亜理紗ちゃんに顔を向けていました。普段は石の姿をしているコマイヌも、この時だけは白い毛並みをそよがせています。


 「えっと……あけましておめでとうございます」

 「おめでとう。おめでとう」

 「……あ、ちーちゃん」


 コマイヌと新年のあいさつをしていると、今度は亜理紗ちゃんが何かを見つけた様子で知恵ちゃんと立ち位置を交代しました。亜理紗ちゃんの視線の先には何人ものお地蔵さんが歩いていて、お地蔵さんも知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの姿を見つけると、ずしりずりしと重たい足音を立てて近づいてきました。


 「子供たち、おめでとう。おめでとう」

 「……あけましておめでとうございます」

 「……そちらの子も、おめでとう。おめでとう」

 「あ……あけましておめでとうごじいます」


 お地蔵さんは亜理紗ちゃんの声を聞き終わると、方向を変えて神社の入り口へと歩いていきました。いつもはお地蔵さんを怖がっている亜理紗ちゃんでしたが、声のやりとりをしてみると怖さが薄れたらしく、知恵ちゃんの後ろから出てきました。


 「ちーちゃん……いいお地蔵さんだった」

 「……悪いお地蔵さんっているの?」


                                 その60の5へ続く

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