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その60の3『神々の宴の話』

 「これ、よろしければ」

 「ありがとうございます」


 車の神様へのお供えを終えた後、お父さんと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの家を訪れました。知恵ちゃんのお父さんはビニール袋に入れたオモチをおすそ分けとして、亜理紗ちゃんのお父さんに手渡します。知恵ちゃんは玄関の奥に亜理紗ちゃんの姿を探してみますが、出てきてくれる様子はありません。


 「そちら、アリサちゃんは初詣に行けそうですか?」

 「頑張って寝てます。起きてるけど」


 亜理紗ちゃんは初詣に行く為に、睡眠をとる努力をしています。知恵ちゃんも夕方近くにお昼寝はしましたが、まだ夜は長いので起きていられるかは解りません。でも、自分の寝起きを上手にコントロールできない為、もうなるようにしかなりません。


 「お父さんは別の家にも行くから、先に家に入ってていいよ」

 「うん」


 知恵ちゃんのお父さんはご近所にもオモチを配りに行くというので、知恵ちゃんは先に自分の家へと戻りました。お母さんは様々な料理をテーブルに並べていて、もう年明けに食べるおせち料理の準備を始めています。お重箱の中には色鮮やかな料理が詰まっており、でも知恵ちゃんの見慣れたものはあまり入っていません。


 「……この赤いの何?」

 「ちょろぎ」

 「ちょろぎ?虫?」

 「う~ん……草かな?」


 ねじれた形の赤い食べ物を発見し、それが何かと知恵ちゃんはお母さんに聞きます。名前や説明を聞いても一向に何かは解らないのですが、ひとまず虫ではないと知れて安心しました。おせちの中にはエビフライが入っているものの、その他の料理については味の想像もつきません。


 「甘いのある?」

 「くりきんとん」

 

 お母さんにクリキントンと伊達巻きを少しもらって、知恵ちゃんは一口ずつ食べてみました。それらはお菓子のように甘くて、年明け後の食事にも安心感を得ました。お父さんが家に帰ってきて、年末のテレビ番組を確かめるようにチャンネルを切り替えていきます。


 「知恵。アニメ見る?」

 「見る」


 格闘技やバラエティ番組、歌番組などが放送されていましたが、特に見たいものもないのでアニメの特番をながしておくことにしました。アニメ番組が終わる頃になると、やっと知恵ちゃんもご飯を食べたい気持ちが湧いてきました。


 「そろそろ知恵、ご飯は食べれそう?」

 「うん」

 「じゃあ、ごはんにしよう」


 お母さんにごはんをよそってもらい、お皿にたくさん入っているエビフライとイカの天ぷら、サラダなどを自分のお皿に取りました。揚げ物は作ったばかりでサクサクしていて、ソースなどを何もつけなくても美味しく食べられます。なんで毎年、エビフライとイカの天ぷらなのか、知恵ちゃんは疑問をお母さんに投げかけました。


 「なんで毎年、イカとエビなの?」

 「イカの天ぷらはね。おばあちゃんの得意料理だから、お母さんの家の味なの」

 「エビは?」

 「お父さんが好きだから。それだけ」


 知恵ちゃんは母方の実家に遊びに行った際に、おばあちゃんがイカの天ぷらを作ってくれたのを思い出しました。お母さんが作ったものは、おばあちゃんの料理の味に似ていて、味付けや作り方を教えてもらったのだと解ります。エビについては、お父さんの好物であるという以外に理由はないようです。


 「おばあちゃん、イカが好きなの?」

 「ここ、イカがよく取れるでしょ?だから、イカ」

 

 果物については県の名産などについても知っていますが、海の名産品までは知らなかったので知恵ちゃんは納得したように頷いています。エビとイカをご飯に乗せて、お腹がいっぱいになるまで堪能していきます。


 「ごちそうさまでした」

 

 ご飯を食べ終わっても、まだ時刻は夜の10時にもなっていません。いつもであれば眠ってしまう時間であり、満腹になったせいもあって、また知恵ちゃんは眠くなってきました。


 「無理そうなら、ベッドで寝ていいんだよ。年が明ける時に、一声かけるから」

 「まだがんばる……」


 そうお父さんに言われますが、折角の特別な日なので、もう少し頑張って起きていることにしました。でも、ソファには犬のモモコも眠っていて、触っていると温かくて気持ちが和らいでしまいます。テレビも夜の10時を過ぎると子どもには難しい内容となり、見ている内に興味がうすらいでしまいます。


 「……あ」


 ふと目をさまします。また眠ってしまっていました。時計の針は12時近くを指していて、もうすぐ年が明けるのが解ります。お父さんとお母さんはマグカップを持って、2人でテレビを見ています。知恵ちゃんは体にかけてあった毛布をよけました。


 「起きた……」

 「起きれたんだ。そろそろ、初詣に行くよ」

 「うん」


 そう言って、お父さんも立ち上がります。ふと知恵ちゃんがテーブルへと目を向けると、おもちが置いてある場所の近くに何か、小さな動物が乗っているのを見つけました。


 「……?」


 それは牛のような生き物で、手のひらに乗る程度のサイズです。知恵ちゃんが見つめると、ぱっちりとした丸い目を細めて、笑顔を返してきました。知恵ちゃんが動物を見ていると知り、その生き物についてお父さんは教えてくれます。


 「神様だよ。知恵も、あいさつしておいて」

 「え……」


 その動物がお父さんにも見えていると解り、改めて知恵ちゃんはテーブルの上にいる牛と目をあわせました。


 「……こんばんは」

 「……こんばんは」


 牛のような姿をした神様に先に声をかけられ、知恵ちゃんも緊張の面持ちで頭を下げました。


                          その60の4へ続く


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