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その60の1『神々の宴の話』

 大晦日です。1年の終わりを迎えるにあたって、知恵ちゃんの家ではオモチを作っています。


 「お父さん。これなに?」

 「自動でおもちをつく機械」


 キッチンには見慣れない機械が置いてあり、お父さんがフタを開いて中を見せてくれます。しっとりと蒸されたもち米が機械の中で丸まっていて、お米の甘い香りが湯気に乗って漂います。


 「機械がお米をついたら、ちゃんとオモチになるんだ」

 「おもちってお米だったんだ……」


 知恵ちゃんの知っているモチつきといえば、うすとキネでオモチを叩く、テレビなどで見かける昔ながらのものです。お父さんがモチつき機のフタを閉めてスイッチを押すと、急に機械はグオングオンと大きな音を立てて揺れ始めました。その音にビックリしながらも、知恵ちゃんは機械の中で何が起こっているのか想像しています。


 「これ、中で叩いてるの?」

 「揺らしてるだけ」


 再び、フタを開いて中を見てみます。本当にモチつき機はお米を揺らしているだけで、でも少しずつモチ米は形を変えていきます。お父さんはオモチの水分量などを確認した後、買い物に出かけようと立ち上がりました。


 「じゃあ、オモチをつくのは時間かかるから、先に買い物に行こう」

 「どこ行くの?」

 「ホームセンターとか、スーパーとか」


 時刻は午後の3時です。大晦日はお店が閉まるのも早い為、夜になる前に知恵ちゃんの家でも買い物を済ませに出かけます。どこへ出かけてもお店は混雑していて、なので必要なものだけ購入して速やかに家へと帰ってきます。偶然、家の前で隣の家の亜理紗ちゃんたち一家と顔をあわせました。


 「あっ、ちーちゃん。何か買ってきたの?」

 「エビとイカ」

 「なんで?」

 「うちはお正月は、イカの天ぷらとエビフライを食べるの」

 「うちは毎年、すき焼き」


 知恵ちゃんの家では毎年、大晦日になると大量にイカの天ぷらとエビフライを作ります。お父さんとお母さんの好物なだけなのですが、これを流用して年越しそばに乗せるエビ天も作られます。でも、知恵ちゃんは年越しまで起きていられたことがないので、年越しそばを食べた事もありません。


 「アリサちゃん。ちょっと遊ぶ?」

 「私、これから寝る」

 「これから?」


 まだ空も明るいというのに、もう亜理紗ちゃんは寝ると言います。それを亜理紗ちゃんのお父さんたちも知っていて、知恵ちゃんたちの会話に頷いて見せています。


 「私ね。今日の夜に、お父さんたちと初詣に行ってみるの」

 「はつもうでってなんだっけ」

 「夜の12時に、神社に行くの」

 「夜?」


 夜は早めに眠ってしまう知恵ちゃんなので、夜の12時に起きているなんて並大抵のことではありません。横で話を聞いていたお母さんが、知恵ちゃんにも行ってみるかと聞いています。


 「知恵も行きたいの?」

 「行っていいの?」

 「起きてたらね。お父さん。連れてってあげていいでしょ?」

 「いいけど、知恵は起きてられないんじゃないの?」


 夜の12時まで起きていていいとお母さんからお許しが出たので、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんたちと一緒に初詣へ行ってみたい気持ちです。12時過ぎに会う約束をして、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも家の中へと入りました。


 「寒いね……私、家に残っておけばよかったかも」


 家族全員で家を空けたのでストーブは消していて、家の中にこもった寒さに手をあわせながら、お母さんは残念そうに言っています。犬のモモコだけは犬用のヒーターへと乗っていて、寒さに苦もなくくつろいでいます。お父さんがストーブをつけ、お母さんはモチつき機の様子を見ています。


 「お母さん。私も、ちょっと寝る」

 「あと10分で、おもちできるけど」

 「……」


 リビングから出ていこうとする知恵ちゃんに、お母さんがオモチの完成予定時刻を告げます。ドアノブへ手をかけたまま、知恵ちゃんは動きを止めています。


 「あとで食べる……」

 「できたてが一番、美味しいのに」

 「……」


 お母さんの言葉を受けて、知恵ちゃんはドアの前で悩みに悩んだ末、しぶしぶながらにモチつき機の近くにあるイスへと戻ってきました。


                                 その60の2へ続く

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