その58の2『予言の話』
みんなの期待にこたえる形で天は雨を呼び込み、放課後にはサラサラとした小雨が街をぬらしていました。学校からの帰り際、知恵ちゃんの傘は桜ちゃんと百合ちゃんに貸し出され、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの傘に入れてもらいます。
「知恵。ありがとう」
「明日、返すね~」
「うん」
知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの傘を見上げます。どこで買ってきたのかと疑問を抱くほど傘は派手で、傘の持ち手の部分は丸い馬の顔に細工されています。先端は普通の傘よりも少し長く、金属もついているので見た目はヤリのようです。
「ちーちゃん。私、予言するね」
「なに?」
横断歩道のある十字路まで来ると、亜理紗ちゃんは車道の赤信号を指さして知恵ちゃんに言いました。
「ゼロって言ったら、信号が青に変わるからね」
「うん」
「10……9……」
亜理紗ちゃんは歩道にある青信号の点滅をチラチラと見ながら、車道の信号機を指さしカウントダウンを始めます。
「さーん……にー……」
「……」
「にー……いー……」
ややタイミングがズレたのか、ゆっくりと数えて修正します。
「ゼロ!」
亜理紗ちゃんの合図からわずかにそれて、車道の信号機が青に変わります。それを見て、車も走り出します。逆に歩道の信号機は赤になり、傘を持った人たちが立ち止まります。でも、知恵ちゃんは驚く素振りも見せません。
「ね?」
「いや……」
タネも仕掛けも解っているので、知恵ちゃんの反応も素直です。これではビックリしないと見て、また亜理紗ちゃんは別の予言を始めます。
「私、曲がる車を予言するよ!」
「……うん?」
「あの車、曲がるよ!」
亜理紗ちゃんの指さした車は左へとウィンカーライトを光らせ、そちらの方向へと曲がっていきます。知恵ちゃんはライトの方向に車が曲がることを知っているので、その予言も困り顔で見送りました。
「アリサちゃん。予言って……あんまりスゴクないかもしれない」
「知ってるとスゴクないかもしれない……」
亜理紗ちゃんの予言と同じように、天気予報も理屈が解るとスゴクないのかもしれない。そう考えながら、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは傘を持つ役を交代しつつ家に帰りました。でも、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんを驚かせられなかったことに心残りがあるのか、帰ってから一緒に遊ぼうと誘います。
「ちーちゃん。帰ったら、予言ごっこしよう」
「予言ごっこ?」
「予言して、当たったら勝ちのゲーム」
「いいけど」
どういった遊びなのかは後で説明を受けるとして、知恵ちゃんは家にランドセルを置いてから亜理紗ちゃんの家へ行く約束をしました。大きな傘のおかげで体はぬれていませんが、長くつをはいていなかったので靴下は湿っています。
「お母さん。傘、桜ちゃんに貸してきた」
「知恵は?」
「アリサちゃんに入れてもらった」
「あら」
桜ちゃんに傘を貸してきたと、知恵ちゃんはお母さんに伝えました。靴下だけはき替えてランドセルを部屋に置き、小雨の中を走って隣の家へと向かいます。インターホンを鳴らし、雨のにおいを感じながら、玄関のドアが開くのを待ちます。
「知恵ちゃん。いらっしゃい」
「おじゃまします」
亜理紗ちゃんのお母さんが出てきて、知恵ちゃんを家の中へとまねきいれました。すぐに亜理紗ちゃんもやってきます。
「おかし持って行くから、2人はアリサの部屋に行っててね」
お母さんと別れて、2人は亜理紗ちゃんの部屋へと移動します。亜理紗ちゃんの部屋に入ると、これからやるであろう予言ごっこについて知恵ちゃんは聞きました。
「アリサちゃん。さっきのゲームって何?」
「紙に予言を書いておいて、当たったらポイントがもらえるゲーム」
亜理紗ちゃんは自分の机からメモ紙を持ってきて、ペンと一緒に知恵ちゃんへと手渡します。とはいえ、急に予言を書くようにと言われても、どういったことを書けばいいのか解りません。そこで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの書いている文字をのぞき見ました。
『お母さんがおかしをもってきてくれる』
「アリサちゃん……それはズルじゃない?」
「見られたか……」
その58の3へ続く






