その58の1『予言の話』
「あれ……ちーちゃん。傘、持って行くの?」
ある朝、学校へ向かう一歩をふみ出した亜理紗ちゃんは、知恵ちゃんが傘を持っている事実に首をかしげます。空は青空の限りであり、どこを見ても雨が降る気配はありません。他の用途で傘を持っているのかと疑ってすらいます。
「まさか……日傘なの?」
「なんか今日、雨が降るらしいよ」
「そうなんだ!」
再び空を仰ぎ見ても、やっぱり雨は降る様子がありません。亜理紗ちゃんも知恵ちゃんにあわせて傘を持ち出し、2人は傘で地面をカツカツとつつきながら登校します。どうして雨が降ると思ったのか、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに質問します。
「ちーちゃん。天気予報、見たの?」
「今日から一週間、ずっと雨だって」
「一週間!?ひええ……」
こんなに空は晴れているのに、もう一週間先まで雨の予報が出ている。その事実に亜理紗ちゃんは驚きます。そして、一週間先まで天気が解ってしまう天気予報にも戸惑ってしまいます。
「一週間も天気が解るのがスゴイ。どうやってるんだろう」
「雲の動きとかで見るんじゃないの?」
「でも、一週間もしたら雲の機嫌も変わるかも……そうか!魔法だ!」
「……?」
近くの空き地へ寄り道すると、亜理紗ちゃんはクツの片方をぬぎかけしにて、ポンと軽くけって飛ばしました。亜理紗ちゃんのクツは草むらの上に転がり、逆さまになって落ち着きました。
「飛ばしたクツが裏返しだと雨なの」
「そういう占いなの?」
「たぶん、クツ占いのプロがテレビの会社にいて、魔法の力で一週間後まで占ってる」
「プロ?」
クツをはき直している亜理紗ちゃんへ、知恵ちゃんはクツ占いのプロについて尋ねます。
「プロは何がスゴイの?」
「宝石みたいなクツをはいてるのかもしれない……」
「プロはクツで決まるの?」
「プロは道具も大事」
亜理紗ちゃんの話は聞けば聞くほど現実感がなくなり、急速に信ぴょう性を失っていきます。学校へ着く頃にはちらほらと雲が見え始め、雨の予報が本当なのだと亜理紗ちゃんも信用の気持ちを見せます。
「ちーちゃん。まちがいない。これは降る」
「傘、アリサちゃんのの近くに置く」
「いいよ」
亜理紗ちゃんが持ってきた傘は学校でも目を引くほどの印象派で、他の人に間違って持って行かれてしまうことは絶対にありません。亜理紗ちゃんの傘の陰に隠すようにして、知恵ちゃんは傘を置きます。まだ空は晴れ晴れとしている為、傘置きにも傘の数は多くありません。
「じゃあ、またね。ちーちゃん」
「うん」
教室の前で亜理紗ちゃんと別れ、知恵ちゃんは自分のクラスへと向かいます。教室へ入るや否や、知恵ちゃんに気付いた凛ちゃんがやってきました。
「チエきち!傘、持ってきた?」
「うん」
「そう!」
知恵ちゃんが傘を持ってきていると知り、凛ちゃんは安心して戻っていきました。凛ちゃんと入れ替わりで、今度は桜ちゃんが百合ちゃんがやってきます。桜ちゃんは傘を持ってきていないらしく、窓の外をながめながら知恵ちゃんに確かめます。
「今日、雨なんだ?」
「たぶん」
「百合も持ってきてないもんね」
「うん」
桜ちゃんと百合ちゃんは、どちらも傘がありません。帰り道で雨が降ってしまえば、ぬれて帰るしかありません。それを思って、知恵ちゃんは傘の貸し出しを提案をします。
「雨が降ったら、貸してあげる」
「じゃあ、知恵は?」
「アリサちゃんに入れてもらう」
「いいの?」
「いいよ」
知恵ちゃんの傘を借ります。すると、知恵ちゃんと亜理紗ちゃん同様、桜ちゃんと知恵ちゃんも同じ傘で帰ることになります。その様子を想像して、ちょっと恥ずかしそうにしながら、桜ちゃんと百合ちゃんは再び窓の外へ視線を動かしました。その後、すぐに桜ちゃんは亜理紗ちゃんの傘の派手なデザインを思い出して、別の意味を込めて聞き返しました。
「……いいの?あれだよ?」
「いいよ」
その58の2へ続く






