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その57の2『お掃除の話』

 外に持って行ったはずの透明な生き物が、先程と同じ場所に戻ってきています。もしや、部屋にたくさんいるのではないかと考え、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは部屋の中を探してみます。でも、その1匹がいるだけで、どこを開けてみても他には見当たりません。


 「いた?」

 「いない。さっきのカタツムリが戻ってきたのかな?」


 亜理紗ちゃんに言われて、知恵ちゃんは本だなの上にいる謎の生き物を見下ろします。大きさも形も、亜理紗ちゃんが外に持ち出したものと似ています。生き物の中に漂うチリは増えていて、最初に見た時よりも姿が見えやすくなっています。


 「……ちーちゃん。ここ、きれいになってない?」

 「……ん?」


 謎の生き物がはい回った部分はホコリが取れて、水拭きをしたようにキレイになっています。でも、生き物の体はおまんじゅうくらいしか大きさがないので、本だなの上のホコリを全て取りきることはできません。体の中がいっぱいになると、満足したように動かなくなってしまいます。


 「あぁ……また消えていっちゃう」


 動かなくなった生き物はキラキラと輝き、蒸発するようにして消えていきます。謎の生き物の気配がなくなり、亜理紗ちゃんは行き先を探して天井を見上げています。知恵ちゃんは変な生き物がいなくなり、やや安心したように息をしてテーブルの近くに座ります。


 「アリサちゃん。あれ、なんだったんだろう」

 「う~ん……」


 うなってみせながらも、亜理紗ちゃんは本だなの上に残っているホコリを指先でスッと取ります。それを見せながら、予想したことを知恵ちゃんに告げます。


 「あれはたぶん、お掃除の妖精」

 「あれ……妖精かな」

 「部屋をキレイにしないと、きっとまた来ると思う」

 「え……」


 もし亜理紗ちゃんがいない時にお掃除の妖精が来たら、知恵ちゃんは気になって宿題も手に着きません。こうしてはいられないとばかり、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはお絵かきセットを片付けます。


 「ちーちゃん。ティッシュもらっていい?」

 「いいよ」


 亜理紗ちゃんはティッシュで本だなの上をふいて、勉強机の小物や置物もふいてキレイにします。知恵ちゃんはガムテープを手に取って、ぺたぺたとじゅうたんのゴミをとっていきます。


 「ちーちゃんの家、掃除機どこかにある?」

 「下にあるよ」


 リビングに充電式の小型掃除機があるのを思い出し、2人は協力して知恵ちゃんの部屋へと持って行きます。その様子を不思議に思ったお母さんが、知恵ちゃんの部屋をのぞきにきます。

 

 「知恵。なにしてるの?」

 「お掃除してる」

 「どうしたの急に」

 「なんとなく……」


 お母さんは意外そうな表情をしていましたが、お部屋を掃除することについて止める必要もありません。折角だからと、水拭き用のウェットティッシュを持ってきてくれます。それも使って、知恵ちゃんはテーブルやベッドのフチなどもみがいていきます。


 「かなりキレイになった」

 「ちーちゃん。これも、食べるかな?」


 亜理紗ちゃんはベッドの上に落ちている知恵ちゃんの髪をつまんで、それもお掃除の妖精が食べるかどうかと疑問を浮かべています。ただ、知恵ちゃんの髪は非常に長いので、それを取り込んだら妖精はお腹いっぱいになってしまいそうです。念には念を入れて、落ちている髪の毛もガムテープで取っておきます。そして、すっかりキレイになった部屋を最終点検します。


 「ちーちゃん。よさそう?」

 「きっと大丈夫」


 部屋にあるものは整頓されていて、ほこりをかぶっているものは1つもありません。じゅうたんやベッド、クッションにもゴミはついていません。やれるだけはやったと見て、亜理紗ちゃんは家に帰る準備を始めます。


 「私。明日、また見に来るね」

 「うん」


 次の日の放課後、お掃除の妖精が来ていないか確かめる為、再び亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家を訪れました。部屋は昨日から散らかっておらず、まだキレイな状態を保っています。一緒に部屋の中を探してみますが、今日はどこにもお掃除の妖精は見つかりません。


 「……」


 お掃除の効果があったと見て、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは顔を見合わせます。それからはお絵かきセットを広げて、昨日の続きをして遊んでいました。


 「……私。そろそろ帰るね」

 「うん」


 夕方近くになり、亜理紗ちゃんは遊ぶのをいいところで切り上げて、自分の家へと帰っていきました。その後、5分ほどして、知恵ちゃんの家の電話が鳴りました。


 「知恵。アリサちゃんから電話だけど」

 「……?」


 お母さんから受話器を受け取り、知恵ちゃんは電話越しに亜理紗ちゃんの声を聞きます。


 『あ……ちーちゃん』

 「なに?」


 あまり電話にでることがないので、知恵ちゃんは慣れない様子で耳をすませています。亜理紗ちゃんはうれしそうな、ちょっと恥ずかしそうな口調で話を続けました。


 『……うちにいた』

 「……?」

 『お掃除の妖精』


 お掃除の妖精は知恵ちゃんの部屋に食べ物がなくなったので、亜理紗ちゃんの部屋へと移動したようです。今度は亜理紗ちゃんの部屋のお掃除が必要と解り、また一緒にお掃除をする約束を交わしました。


 「……次、そっちの掃除に行っていい?」

 『……うん。よろしくね』


                                その58へ続く


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