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その56の3『永遠の夜の話』

 午後の授業が開始された頃になり、学校の外には雨が降り始めました。給食を食べたせいで眠気が再燃し、生徒たちは授業に身が入りません。知恵ちゃんも先生の話をぼーっと聞いていましたが、朝に十分な睡眠をとったかいもあって、居眠りをしてしまうことはありませんでした。


 放課後、今日は雨が降っているからか生徒たちも帰宅がスムーズで、百合ちゃんや桜ちゃんと話をしている内に亜理紗ちゃんもやってきました。


 「あ、ちーちゃん。百合ちゃんたちも、もう帰る?」

 「帰るよ~」


 ヒーターで温められていた教室から出ると、ろうかは氷でできたように寒く感じられました。クツをはきかえに学校の玄関へ向かいます。朝よりも更に気温は下がっており、学校の外へ出ると息が白くくもりました。傘を広げて大粒の雨の中を進み、校門前で百合ちゃんや桜ちゃんとお別れします。


 「ちーちゃん。今日、帰ったら遊ぶ?」

 「結構、すごい雨だし……」

 「じゃあ、今日はいいか」


 亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは家が隣同士なので行き帰りに難はありませんが、今日の天気といえば傘から流れる程の雨です。つめたさと寒さが肌に染み込みます。今日は2人とも家に帰って、ゆっくりと温まる予定としました。


 「そうだ。ちーちゃん」

 「……?」


 亜理紗ちゃんが傘を高くして近づき、知恵ちゃんのほほに指をつけます。どちらの体温も低いので、つんと感触が伝わるだけです。知恵ちゃんが疑問の表情を返すと、亜理紗ちゃんは指に残ったほほの柔らかさを確かめつつ告げました。


 「ちーちゃん。今、これ……夢?」

 「ちがうみたい」

 「そっか。夢だったら朝まで戻って、ケーキを食べるチャンスだったのに」

 「ケーキは食べたいけど、また学校で勉強はしたくない……」


 家の前で亜理紗ちゃんと別れて、知恵ちゃんは玄関のドアを開きました。電気のついているろうかを歩いてリビングへと向かい、お母さんに顔を見せてから自分の部屋へと移動します。今日は宿題も時間がかからずに終わり、気持ちが楽になったところでベッドへと横になりました。


 「……」


 雨の音がタンタンと聞こえます。ふとんに入ると自分の体温が中にこもり、段々と居心地がよくなってきます。このまま眠ってしまおうか。そう考えたところで、知恵ちゃんは冷蔵庫にケーキが入っているのを思い出しました。速足に1階へと戻って冷蔵庫を開け、いちごの乗ったショートケーキがラップにくるまっているのを確認します。


 「お母さん。ケーキ食べていい?」

 「いいよ」


 まだ夕食まで時間があるので、お母さんからケーキのお許しが出ます。お母さんが紅茶をいれてくれた為、それをもらってから知恵ちゃんはフォークを持ち上げました。


 「いただきます」


 まず始めにイチゴを食べてしまい、残った白いクリームと、しっとりとしたスポンジケーキをフォークですくいとります。最後まで食べ終わって、イチゴは最後に残せばよかったかもしれないと知恵ちゃんは思考を巡らせます。


 「……ねぇ、お母さん。ほっぺた引っ張って」

 「……?」


 お母さんは言われた通りに、知恵ちゃんのほほをつまんでみます。お母さんが手をはなすと、知恵ちゃんは引っ張られた部分を押さえながら、まばたきを繰り返しました。これが夢であれば再びケーキを食べられたのですが、今の自分は現実にいるのだという実感がわいてくるだけです。


 「……ねぇ、お母さん」

 「なに?」

 「……夢って、どうやったらさめるの?」

 「……知恵は今、どこにいるの?」


                            その56の4へ続く

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