その11の1『怪獣ごっこの話』
「ちーちゃん。国語の教科書かしてー」
ある日、学校の休み時間に亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの教室へやってきました。亜理紗ちゃんは家に国語の教科書を忘れてきてしまったらしく、それを貸してもらうために知恵ちゃんの教室まで来たようです。
「これ?」
「うん。かわりに、社会の教科書をちーちゃんに貸します」
「借りなくていいけど、なんで?」
「人質として社会の教科書をちーちゃんに貸すから大事にして」
その日の知恵ちゃんの学級では国語の授業が終わっていたので、亜理紗ちゃんに教科書を返してもらうのは放課後でも問題ありません。ですが、亜理紗ちゃんが担保として社会の教科書を貸し出したため、自然と知恵ちゃんの社会の教科書が2冊になりました。
知恵ちゃんのクラスの次の授業は社会だったので、せっかくだからと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの教科書を使ってみることにしました。
「教科書の68ページを開いてください」
先生の言う通り、知恵ちゃんは教科書の68ページを開きました。そこには社会のなんたるかが大雑把に書かれており、建物の写真や地図が掲載されています。しかし、知恵ちゃんは教科書の右下の空白に、およそ社会と関係のないものが描かれているのを見つけました。
「……?」
それは亜理紗ちゃんが描いた落書きで、角の生えたネコのような丸い生き物でした。あまり可愛くない上に亜理紗ちゃんの絵は下手でしたので、見方によっては悪いキャラクターにも見える出で立ちをしていました。
「次のページの写真を見て下さい」
そう言いながら先生が教科書のページをめくり、生徒たちも本のページを進めます。知恵ちゃんの教科書の次のページにも、やはり他の生徒の教科書には載っていないものが描かれていて、それは別ポーズで描かれた先程と同じキャラクターでした。
「……」
亜理紗ちゃんの描いたキャラクターが気になり、珍しく知恵ちゃんは授業に集中することができませんでした。放課後、家へ帰る前の校門付近にて、2人は貸し出した教科書をお互いに差し出しました。通学路をたどる途中、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの教科書に描かれていたものについて質問しました。
「……アリサちゃんの教科書に、悪そうなキャラが描かれてたんだけど」
「アリサウルスは悪くないんだけど」
「アリサウルスっていうの?」
「アリサウルスっていうの」
「なんで自分の名前つけちゃったの?」
以後、キャラクターの名前については話題に上がらず、そのまま二人は自宅の前まで到着しました。すると、亜理紗ちゃんは何か良いことを思いついた様子で、知恵ちゃんとの約束を取り決めました。
「そうだ。今日の夜にアリサウルス、うちの階段のところに置いておくから見て」
「どこ?」
「階段の窓のところに置いて寝るから、寝る前に見てね」
そう伝えると、亜理紗ちゃんはパタパタと走りながら、自分の家へと入っていってしまいました。知恵ちゃんの家の廊下の窓からは、亜理紗ちゃんの家の階段の窓が見えます。それをのぞき見てから、知恵ちゃんは家のリビングへと向かいました。
その2へ続く






