その55の3『秘密結社の話』
亜理紗ちゃんの声に呼ばれて、知恵ちゃんも机の下へと入っていきます。暗闇はトンネルのように先まで続いており、どこか建物らしき場所へと通じていました。すぐ目の前にはしゃがみこんだ亜理紗ちゃんの姿があって、柱に身を隠しながら何かをのぞいています。
「なにがあったの?」
「ちーちゃん。あれ」
ごつごつとした岩の柱から顔だけ出して、その向こう側にある広い場所を見つめます。そこにはゴロゴロとガラクタのようなものが山積みにされていて、中には亜理紗ちゃんの部屋にあったティッシュ箱もまざっています。
「盗まれた……きっと秘密結社の基地だと思う」
「別にいいんじゃないの?空だし」
「うん。いいんだけど……」
空の箱ティッシュに未練はありませんが、他に持って行かれたものがないかと気にして、亜理紗ちゃんはティッシュ箱へと近づきます。すぐに知恵ちゃんは手をとって、亜理紗ちゃんを柱の陰に引き戻しました。
「アリサちゃん。何か来た」
「……?」
広場は高い壁で囲われていますが、奥には1本の通路が続いています。天井からは陽の光がもれており、そこから差し込む光の中に影が映ります。何かが走ってくるのを知って、亜理紗ちゃんは再び物陰から様子をうかがいました。
「……ちーちゃん。なにあれ?」
「……なんだろう」
広場に入ってきたのは黒い球のような体に、細い2本の足が生えた小さな生き物で、積み上げられているガラクタの周りをグルグルと走り回っています。黒い生き物は亜理紗ちゃんの部屋にあったティッシュ箱を見つけると、それを頭にかぶって来た道へと戻っていきます。
「追いかけよう」
亜理紗ちゃんは柱の陰から出て歩き出しますが、ティッシュ箱を頭につけた生き物は足が遅く、あまり急いで追いかけると簡単に追い越してしまいます。そこで、亜理紗ちゃんは山積みになっている品々をながめ始めました。
「……ちーちゃん。盗まれたものとかある?」
「特にないと思う……」
広間には亜理紗ちゃんの部屋にあったティッシュ箱の他にも、金属の箱や木の板、大きな石など、様々なものが無造作に置かれています。ティッシュ箱を持った生き物の後ろを歩いていると、また向こう側から似たような形の生き物がやってきました。
「……ピッ!」
「……あ」
やってきた黒い生き物は亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの姿を見つけた途端、甲高い声を短く発してプルプルと震え始めました。でも、逃げる訳でもなく向かってくるでもなく、ただ警戒するようにして立ちすくんでいます。
「ちーちゃん……見つかってしまった」
「……逃げる?」
逃げようと後ろを向きますが、そちらからも黒い生き物が走ってきており、正面にいる生き物と同じく震えながら身構えました。
「……ピッ!」
はさみうちにされる形とはなりましたが、どちらの黒い生き物も襲ってくる様子はありません。ただひたすら、プルプルと震えています。そんな知恵ちゃんたちには気にも留めず、木の箱を被った別の黒い生き物が横を通り過ぎていきます。
「……そうだ!ちーちゃん。これ」
亜理紗ちゃんはポケットからバンダナを取り出し、それを知恵ちゃんに渡します。いまいち状況が飲み込めない知恵ちゃんの前で、亜理紗ちゃんは上着をぬいで顔を隠しました。
「アリサちゃん……なにこれ?」
「変装する」
「もう見つかってるのに……?」
亜理紗ちゃんを真似て、知恵ちゃんもバンダナで口元を隠します。すると、黒い生き物は安心したように震えをおさめて、再びパタパタと足を動かし走り始めました。
「助かった……ちーちゃん。その布、つけておいて」
「顔がかくれてればいいんだ……」
「……ピッ!」
今度は何も被っていない生き物同士が対面し、緊張したように動きをかためます。知恵ちゃんたちを前にした時と同じようにして、黒い生き物はプルプルと震えながら立ち止まっています。それを目の当たりとし、やっと知恵ちゃんは生き物たちの思考を理解しました。
「あ……仲間同士でも緊張するんだ」
「……かぶるもの、持ってきてあげよう」
黒い生き物同士でも素顔で出会うと緊張してしまうと知り、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは黒い生き物の被り物を探しに、先程のガラクタ広場へと戻りました。
その55の4へ続く






