その55の2『秘密結社の話』
家にランドセルを置き、今日は知恵ちゃんが亜理紗ちゃんの家へと遊びに行きます。玄関先で出迎えてくれた亜理紗ちゃんはバンダナで口元をおおっていて、やや息苦しそうに目を細めています。
「どうしたの?」
「……マスクなかったから、布を巻いてみたの。かっこいい?」
「怪しい……」
口元にバンダナをつけたままではお菓子を食べられないので、自分の部屋につくと亜理紗ちゃんはバンダナをはずします。何をして遊ぶか考えつつ、亜理紗ちゃんはオモチャ箱を開きました。
「ちーちゃん。今日、なにする?」
「なんでもいいけど」
おもちゃ箱の中はお馴染みのものばかりで、目新しいオモチャはありません。亜理紗ちゃんはブロックを使うゲームの箱を持ち出しました。
「これやろう」
「いいよ」
それは積み重ねたブロックの中から、くずれないようにブロックを1本ずつ引き抜いていくゲームで、およそ2週間に一度は2人で遊んでいるものです。指先でブロックをつついてみて、軽く動いたら抜き取れる証拠です。
「そういえば、ちーちゃん。秘密結社って何する人たちなの?」
「悪いことじゃない?」
「悪いことって?」
「……ものを盗んだり」
「……銀行強盗も秘密結社かもしれない」
秘密結社の実態が知れたところで、亜理紗ちゃんはブロックのタワーへと視線を戻しました。亜理紗ちゃんがブロックのタワーを四方からながめている間、知恵ちゃんはお菓子を食べながら待っています。やや手にお菓子の粉がついてしまったので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに断ってティッシュをもらいました。
「これ、もらっていい?」
「いいよ」
ボックスからティッシュを引き抜きます。すると、それが最後の1枚であり、ボックスのティッシュは空になってしまいました。
「あ……ごめん」
「別のティッシュをもらってくる」
最後のティッシュが引き抜かれ、亜理紗ちゃんは新しい箱ティッシュをもらいに部屋を出ていきました。知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが取ろうとしていたブロックがくずれないよう、じっと見張っています。
「……?」
何かの動く気配を感じて、知恵ちゃんは空のボックスティッシュへと視線を戻します。いつの間にかティッシュの空箱は逆さまになっており、知恵ちゃんは箱の裏にかいてある注意書きを読んでいました。
「……!」
突然、ティッシュを引き抜く穴から足が生え、すっと立ち上がりました。ティッシュ箱はテーブルを飛び降りて走り出し、亜理紗ちゃんの勉強机の下へと入っていきます。
「もらってきた」
亜理紗ちゃんは部屋へと戻ると、新しいテッッシュ箱をテーブルに置いて、引き抜きかけていたオモチャのブロックへと意識を戻します。
「……取れた。次、ちーちゃん」
「うん」
すでに6本のブロックが抜かれており、それなりにバランスが悪くなってきています。そんなブロックのタワーから、知恵ちゃんは引き抜いても安全なものを探しています。ふと、亜理紗ちゃんはティッシュの空箱がなくなっていることに気づきました。
「……あれ?ちーちゃん。からの箱は?」
「……なんか歩いていったけど」
「……え?どこに」
「そこ」
知恵ちゃんが指さした方へと向かい、亜理紗ちゃんは勉強机のイスを引いて机の下へと頭を入れます。勉強机の下は大して広くないはずですが、入り込んでいった亜理紗ちゃんはなかなか戻ってきません。
「……?」
不思議に思い、知恵ちゃんも勉強机をのぞきこみます。その奥にある暗がり、亜理紗ちゃんの声だけが戻ってきました。
「ちーちゃん。大変だ!」
「……どうしたの?」
「机の下に秘密結社がある!」
「……え?」
その55の3へ続く






