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その54の3『誰かの話』

 桜ちゃんから執事さんについて詳しく聞き、知恵ちゃんは執事がボディーガードのような人であると考えました。


 「でも、いつも近くにいると思ったら緊張する……」

 「家族みたいなものだろうし、緊張しなくていいんじゃ……」

 「目に見えない家族も怖い……」


 目に見えない執事も学校の中までは入ってこないようで、放課後になるまでは身近に異変はありませんでした。でも、亜理紗ちゃんと歩く帰り道、登校時と同様に足元の石や葉っぱが寄せられていくのが見えました。


 「でた!親切さんだ!」

 「親切さんって名前になったんだ」


 目に見えない執事さんは亜理紗ちゃんに親切さんと呼ばれ、家へ着くまでの間も常に知恵ちゃんのお世話をしていきます。その道中で、知恵ちゃんは桜ちゃんから聞いた執事さんの話を亜理紗ちゃんにしていました。


 「え、ひつじ?」

 「し」


 桜ちゃんとしたやり取りをもう一度しつつも、2人は家の前へと到着しました。このあと一緒に遊ぶ約束をして、知恵ちゃんは自分の家の玄関へと向かいます。


 「あ……ちーちゃん!」

 「……?」

 

 パタパタと走り出し、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家の玄関ドアの前に立ちます。そして、同意を求めるようにしてうなづいてみせます。


 「……」


 亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家の玄関ドアを代わりに開きます。ふわりと家の中から風が吹き抜けてきました。知恵ちゃんが家の中へと入るまで待って、亜理紗ちゃんは声をかけながらドアを閉めます。


 「……じゃあ、あとでね」

 「うん」


 部屋にランドセルを置いてお母さんに声をかけ、知恵ちゃんは隣にある亜理紗ちゃんの家へと向かいます。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家の前まで迎えに来ていて、丁寧に知恵ちゃんの手を引いてエスコートしながら家へ行きます。


 「……どうぞ」

 「……ありがとう」


 亜理紗ちゃんが家のドアを開いて、知恵ちゃんを自宅に招き入れます。そうしていると、親切さんはやることがなくなってしまうので、知恵ちゃんの身の回りに干渉できません。亜理紗ちゃんは自分の部屋まで知恵ちゃんを案内し、ジュースをもらいに台所へと向かいます。


 「……」


 亜理紗ちゃんは思い出したように戻ってきて、自分の部屋を見回します。知恵ちゃんが部屋の中に立っていて、テーブルの近くには、もう座るためのクッションが用意されていました。


 「……しまった。クッションが準備してある」

 「……?」

 「ジュース持ってくるね」


 親切さんがクッションを移動させており、お世話の先を越されたとばかり亜理紗ちゃんは台所へと急ぎます。トレーにお菓子とジュースを乗せて戻り、それをテーブルに乗せると亜理紗ちゃんは知恵ちゃんと向かい合って座ります。


 「ちーちゃん。ジュース飲む?おかし食べる?」

 「なんで?」

 「……やってあげる」


 コップの1つにはストローが差してあり、それが知恵ちゃんの分の飲み物です。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに肩をくっつけて座りなおすと、コップを手に持って知恵ちゃんの口元へと運びます。ストローの先を知恵ちゃんにかませてあげて、くちびるの動きや吸われる飲み物を観察しています。


 「おいしい?」

 「……うん」


 亜理紗ちゃんはお菓子をスプーンですくって、これも知恵ちゃんの口の高さへと持って行きます。お互いにぎこちない動作ながらも、丸いお菓子は知恵ちゃんの口へと入れられます。


 「ん……」

 「ちーちゃん。おいしい?」

 「うん……」

 「……?」


 ふと亜理紗ちゃんは、知恵ちゃんの飲み物が入っているコップを見ます。ゆっくりゆっくりとストローが回っていて、コップの中の氷がかきまぜられています。氷の水で上下に分離した飲み物が、均等な色合いに整っていきます。


 「……それは気づかなかった……さすが親切さんだ」

 「……?」


                               その54の4へ続く

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