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その54の2『誰かの話』

 「なんか、今日は変なんだ……」

 「なんで?」


 寝違えた首を動かして痛みを確かめつつ、知恵ちゃんは少しだけ開いていたドアのことを亜理紗ちゃんに話します。知恵ちゃんの声に耳を傾けていた亜理紗ちゃんでしたが、急に知恵ちゃんの肩をつかんで立ち止まりました。


 「ちーちゃん。ちょっと」

 「……?」


 首を動かさないよう、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが指さした方へと顔を向けます。すると、目の前の道路に転がっている小石や落ち葉が、まるでホウキではかれるようにして左右に寄っていきます。知恵ちゃんが足を前へ動かすと、その先に落ちているものもどけられていきます。それをじっくりと観察した末、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの話に納得しました。


 「ちーちゃん。これ、あれじゃないの?」

 「あれって?」

 「ちーちゃんの首が痛いから、大変じゃないように手伝ってくれてるの」

 「……そうなの?」


 亜理紗ちゃんが言うには、首の痛い知恵ちゃんを気づかって、誰かが道を開いてくれているとのことです。そんな親切も家から離れるにしたがって力を弱めていき、学校へ着く頃になると、身の回りにあるものが勝手に動く現象もおさまっていました。


 亜理紗ちゃんとはクラスの前でお別れして、知恵ちゃんは自分の机にランドセルを置きます。首の痛みは寝起きほど酷くはありません。今日は体育の授業もなく、給食当番でもありませんので、一日を安静に過ごすと決めました。その矢先、友達の桜ちゃんが背後から知恵ちゃんの体に触りました。


 「おはよう、知恵」

 「あ……」


 触られた瞬間、知恵ちゃんは手を目の前へと上げたままストップします。すぐに知恵ちゃんの異変に気づき、桜ちゃんは静かに手を離します。


 「……知恵。どうしたの?」

 「首が……」

 「知恵ちゃん。おはよう~……?」


 桜ちゃんと知恵ちゃんは動作を止めたまま、不思議なポーズで待機しています。それを見つめつつ、声をかけた百合ちゃんも同様の反応を示しています。知恵ちゃんの痛みが引いてくるのを待ち、桜ちゃんは知恵ちゃんの前に回り込んで謝ります。


 「知恵。ごめん……でも、なに?」

 「起きてから、なんか首が痛い……」

 「ああ。そういう……」


 知恵ちゃんは朝から首が痛い事、それと、くわしい内容はぼやかしながらも、ドアが勝手に開いていたり、前にある障害物が避けていくことも明かしました。百合ちゃんは不思議そうな表情で天井を見つめているのですが、桜ちゃんは思い当たる節があるらしく、知恵ちゃんに思ったことを告げます。


 「それ、マンガに出てくる、しつじさんみたいじゃない?」

 「ひつじさん?」

 「お嬢様の近くでお世話をしてくれて、黒い服を着てるんだ」

 「ひつじさんが?」

 

 桜ちゃんの言葉に知恵ちゃんは精いっぱいの想像力を働かせますが、黒い羊がドアを開けたり、足で小石や葉っぱをどかしている姿しか思い浮かびません。


 「それでね。しつじさんは地面に水たまりがあったら、ぬれないように運んでくれたりして」

 「乗れるくらい大きいんだ……」

 「ご気分はいかがですか?とか聞いてくれたりして」

 「しゃべるんだ……」


                                 その54の3へ続く


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