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その53の3『ひとつまみの話』

 空き地で見つけた木の実はカビのような色をしているので、亜理紗ちゃんは木の実を葉っぱですくってビンの中へと落とします。木の実は透きとおった水の中に沈んだまま、小さな泡を立てています。外側のカラが少しずつ溶け、水は緑色へと変わっていきます。


 「……ちーちゃん。お茶みたいになったけど」

 「……緑すぎない?」


 緑茶にしては色が濃く、まるで水の中に緑色の煙が立ち込めたようです。木の実のカラが解けきると、中からは緑色の果実が現れます。果実が割れて中身がもれだし、すっかり水はにごりきってしまいました。もうビンの中に沈んでいるものは何一つとして見えません。


 「……!」

 「……!」


 ドロドロになった水の表面に泡が浮かび、パチパチとはじけ始めます。水のにおいも濃くなり、ビンの中から漂っていた涼しい香りは、あっという間に薬にも似た苦々しいにおいへと変化しました。


 「ちーちゃん!毒だ!」

 「石とか砂とか入れた時から、もう毒だったけど……」

 「ちょっとあったかいけど」

 「あったかい毒なんだ……」


 コポコポと泡を立ち昇らせる水は温度が上がっており、手を近づけるとお風呂のような温かみが感じられます。しかし、においは2人の苦手なものなので、ちょっとだけ離れて様子を見守ります。水面の泡が段々と増えていき、カチャリとビンが揺れました。


 「あっ!」


 地面に置いているビンが揺れを強め、このままでは転がってしまいそうです。中身がこぼれ出ると、毒のにおいが広がってしまいます。


 「私が、変な木の実を入れたせいで水が変になった……」

 「なんでもかんでも入れるから……」

 「どうしよう……」

 

 あわてている亜理紗ちゃんをなだめつつ、知恵ちゃんが辺りを見回します。すると、ブロックべいの近くで見つけたものと同じ木の実が、くさむらの下に落ちているのに気づきました。


 「あれを入れたらなおるかも」

 「私、入れてみる!」


 亜理紗ちゃんは葉っぱに木の実を乗せ、泡のあふれでているビンの中へと転がします。見る見る内に水は色を失い、すっかり透明な水へと戻りました。でも、振動を与えた炭酸水のように、泡はシュワシュワと音を立てています。もうビンは倒れてしまいそうです。


 「ちーちゃん。泡だけとまらないんだけど」

 「においはしなくなったし、いいんじゃないの?」

 「倒れたら割れるかもしれない……」


 万が一にもビンが割れたら、お母さんを呼ばないといけません。すると、もう空きビンがあっても、もらえないかもしれません。それはイヤなので、亜理紗ちゃんは揺れるビンの泡を止める方法を探します。


 「ちーちゃん……草はどうかな」

 「はい」


 入れてみます。草は泡にまみれるだけど、泡の発生はとまりません。


 「ちーちゃん……」

 「はい」


 渡されるがままに、亜理紗ちゃんは石を入れてみます。石はビンの底に沈んだだけで、泡はとまりません。


 「どうしよう……」

 「砂は?」

 「砂……」


 空き地の地面から砂をつまみ取って、亜理紗ちゃんはビンの中へと落としてみます。浮いては弾ける泡に砂がまとわりつき、水面に浮いた砂が泡をさまたげます。


 「……」

 「……」


 あふれるほどあった泡は次第におさまり、コトコトと揺れ動くビンも落ち着きを取り戻していきます。


 「アリサちゃん。おさまった?」

 「よかった……おさまった」


 2人でビンをのぞきこみます。そこには透明な水がたまっており、入れられた様々な自然物が水に浮いたり沈んだりしていました。亜理紗ちゃんはビンにフタをした後、そでの中へと手を引っ込め、手を鍋つかみのようにしてビンを持ち上げます。家に向かって静かに歩き出した亜理紗ちゃんの背中へと、知恵ちゃんは今の心境を尋ねました。


 「まだ、なにか入れる?」

 「もう入れないよ」

 「反省したの?」

 「……反省したの」


                                   その54へ続く 

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