その53の2『ひとつまみの話』
知恵ちゃんの家のお味噌汁にじゃがいもが入らない件について、亜理紗ちゃんは強い意思を持ってじゃがいもをオススメをしていきます。なぜならば、亜理紗ちゃんはお味噌汁の具で、じゃがいもが最も好きだからでした。
「入れた方がいいのに……じゃがいもは」
「だってカレーみたいになるでしょ……たまねぎも入ってるし」
「たまねぎ!ちーちゃんの家のお味噌汁、たまねぎ入ってるの!?」
「え……入ってないの?」
「ひええ……」
自分の家の食卓が、友達の家と同じではないと理解し、2人はお味噌汁の話題を切り上げました。そこで改めて、ビンの中に入っているお味噌汁のような液体を見つめます。ここまでにごってしまっては後に引けず、あらゆるものを入れてみようと、亜理紗ちゃんは家の周辺を散策し始めます。
「ちーちゃん。なにかあったら教えてね」
「うん」
他人の家の所有物を勝手に入れるわけにはいかないので、ビンの中へ入れていいものといえば雑草くらいです。亜理紗ちゃんは長めの雑草をていねいに折りたたんで、ビンの中へと詰め込んでいます。
「……薬みたいになってきた」
「アリサちゃん……どこを目指してるの?」
雑草を入れたビンの水は緑がかっており、もはやキレイかキレイではないかと判断しようものならば、体によさそうという感想しか知恵ちゃんには浮かんできません。
「……ん?」
「ちーちゃん。どうしたの?」
「ここ、なにかある」
ブロックべいにあいている穴の中に、小さなクルミに似た木の実があるのを発見し、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんへと呼びかけました。その近くには実のなっている木も生えておらず、見たところでは近所の家のものではないようです。亜理紗ちゃんは木の実を手に取って、穴や傷がないかと目視確認しています。
「……入れてみよう」
「入れるの?」
よごれた水へと木の実を入れると、その分だけ中の水があふれてしまいます。亜理紗ちゃんはフタをしてビンを揺らします。すると、次第にビンの中の水は透明になり、南国の海を思わせる青色へと変化しました。
「すごい実だ……ちーちゃん。これ、なんの実?」
「知らない」
「もっとほしい……」
水を数秒で浄化した謎の木の実を探して、亜理紗ちゃんはブロックべいの近くを念入りに探索します。でも、もう先程の木の実は落ちてはいません。
「もっと入れたい……」
「もういいでしょ……」
ビンの中の水は澄んだ青色に揺れていて、石や葉っぱもキレイな水に漬かって輝いています。ビンをキレイに飾りたい亜理紗ちゃんは、残念とばかりにまゆを寄せつつ木の実を諦めました。
「……あ」
少し道を行った先にて、今度は亜理紗ちゃんが、空き地の雑草の中に木の実が落ちているのを発見します。
「……ちーちゃん。これ、あれと同じかな」
「……ちょっと違うんじゃない?」
「……」
木の実は知恵ちゃんが見つけたものに形は似ているものの、どことなく殻の色が緑がかっています。色味に毒々しいものを感じ、知恵ちゃんは怪しむ顔つきで実に目を細めています。その一方で、亜理紗ちゃんはビンの中へ実をと入れて、実験してみたい気持ちでいっぱいです。
「ちーちゃん……入れてみようよ」
「なんでちょっと悪い顔なの……」
その53の3へ続く






