表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/367

その53の1『ひとつまみの話』

 「ちーちゃん。これ、お母さんからもらったんだけど」

 「なにそれ」


 学校が終わって家に帰り、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家の前で待ち合わせをします。家から出てきた亜理紗ちゃんは手にビンを持っており、それを自慢げに太陽の光へと透かしてみせます。特に何が入っているわけでもなく、ビンのラベルもはがされている為、どこから持ってきたものなのかと知恵ちゃんは首をかしげています。


 「これは、ハチミツのビンなんだけども」

 「大きくない?」

 「大きいハチミツののビンだから大きい」


 ハチミツの入っていたビンは空っぽで、すでに洗ってあるのでまっさら透明です。フタを開けてみると口も広く、亜理紗ちゃんの拳くらいなら簡単に入ってしまう大きさでした。ちょっとだけですが、ハチミツの甘い香りが残っています。割らないようにお母さんから注意されているので、しっかりと両手で持って慎重に取り扱います。


 「ちーちゃん……なに入れたい?」

 「別に入れなくてもキレイだけど……」

 「水を入れてみよう」


 せっかくのビンなので、亜理紗ちゃんは中に何か入れてみたい気持ちです。ひとまず、庭にある水道の栓をひねって、水道水をなみなみと入れてみます。いっぱいまで水が入ったビンのフタを閉めて、亜理紗ちゃんはビンを日向に置いてみます。ビンは中に太陽の光を閉じ込めていて、向こう側にある世界をぐっとゆがめています。


 「どうかな?ちーちゃん。これ、キレイ?」

 「宝石みたい」

 「ジュースとか入れたら、もっとキレイかもしれない」

 「すいとうとしても使える」


 紅茶やメロンソーダを入れたビンを想像しながら、2人はビンの向こうにある景色をながめています。亜理紗ちゃんはビンを大事そうに持ち上げ、キョロキョロと辺りを見回します。


 「なにか入れたら、もっとキレイになるかも」

 「なにを?」


 ゆっくりと家の周りを歩いてみます。花壇の近くにある小さめの石をいくつかひろい上げ、それを亜理紗ちゃんはビンに入った水の中へとしずめてみました。ビンの底に灰色の石が散らばるも、一緒に砂や土が入ってしまい、水は茶色くにごってしまいます。


 「よごれた……」

 「水、とりかえる?」

 「まだ、なんとかなるかもしれない……」


 ビンの底に石が見える様子は悪くないとして、亜理紗ちゃんは更に何か足して美しさを取り戻そうと試みます。家の花壇にある植物をむしるとお母さんに怒られるので、道路の脇に咲いているタンポポから花びらを拝借し、やや茶色がかっているビンの中へと入れてみます。


 「う~ん……あんまり見えない」

 「……」


 水が茶色くなっているので、中に入った花びらも砂や土に交じって見えません。花びらだけではたりないと見て、亜理紗ちゃんはタンポポの葉っぱも入れてみます。フタを開けたまま、2人は上から横から、ビンの観察をしていきます。


 「……どうかな?」

 「こういうお味噌汁、うちで出るよ」


 ビンの中には茶色い水が入っていて、底に石が沈んでいます。黄色い花びらと、緑色の葉っぱが水の中に舞っています。それを見て、知恵ちゃんはお味噌汁に入っている、菊とシジミとワカメを思い出しました。


 「じゃあ、じゃがいもも入れたい……」

 「アリサちゃんの家、じゃがいもも入れるの?」

 「え……入れないの?」

 「うちは入れない……」


                              その53の2へ続く

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ