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その52の2『声の話』

 「ちーちゃん。このあと、どうする?」

 「寝る」

 「やっぱり寝るんだ……」


 ラジオ体操の為に朝早くから頑張って起きてはいますが、夏休みなので起きても他にやるべきことはありません。そこで、ラジオ体操が終わって家に帰ると、知恵ちゃんは午前9時ごろまで再び寝てしまいます。


 「そうだ。ちーちゃんの家に行っていい?」

 「え……寝るのに?」


 今から寝ると言ったそばから、亜理紗ちゃんが遊びに行くと言います。亜理紗ちゃんが家に来て、そのまま眠ってしまうことはよくありましたが、亜理紗ちゃんの寝相はあまりよくないので、同じベッドで寝るのは大変です。


 「……一緒に寝るの?」

 「ちーちゃんが起きるまで、1人で遊んでる」

 「じゃあ、起きてから遊んでも……」

 「ちーちゃんが起きるまでに、部屋にペットボトルのフタをかくすよ」


 知恵ちゃんが寝ている内に宝物をかくして、それを知恵ちゃんに見つけてもらう遊びがしたいようです。知恵ちゃんのお母さんも横でお話を聞いており、知恵ちゃんの部屋だけで遊ぶならと了承を出しました。一旦、亜理紗ちゃんは家に帰ってスタンプ用紙を置き、それから知恵ちゃんの部屋へと遊びに来ました。


 「ちーちゃん。気にしないで寝てね」

 「言われなくても寝るけど……」

 「あ……マンガ読んでいい?」

 「いいけど」


 知恵ちゃんの部屋にマンガの雑誌があるのを発見し、亜理紗ちゃんは情報収集から始めます。知恵ちゃんはベッドに入って目を閉じるのですが、窓の外からは子供たちの行き交う声が聞こえてきます。ベッドの横では時たま、亜理紗ちゃんの笑い声がします。


 「……」


 知恵ちゃんは目を開くと、亜理紗ちゃんの読んでいるマンガを後ろからのぞきながら声をかけました。


 「……やっぱり私、起きてる」

 「ダメだよ……ちゃんと寝ないと」

 「だって……折角、アリサちゃんがいるし……」

 「でも、ちーちゃんは起きてたら、次は10時くらいに寝るじゃん」

 「そうだけど……」


 普段よりも早く起きた分だけ、あとで知恵ちゃんが眠くなってしまうのを亜理紗ちゃんは知っています。なので、遊ぶ前に眠って欲しいのですが、亜理紗ちゃんが部屋にいると妙に意識してしまって知恵ちゃんは眠れません。かといって、亜理紗ちゃんに帰って欲しくはないので、知恵ちゃんは言われるがままにベッドへと戻ります。


 「ちーちゃんが寝れるように、マンガを読むね」

 「……?」

 「前回までのお話。押し入れから出てきたロボットは、未来から来た宇宙人で……」

 

 亜理紗ちゃんがマンガの文字を声に出して読み上げます。すでに知恵ちゃんは読み終わっているマンガなので、声を聞くとマンガの絵が思い出されます。最初は部屋に自分以外の人がいるという状況に慣れなかった知恵ちゃんも、亜理紗ちゃんの声が聞こえる環境に段々と慣れてきたのか、少しずつ意識がうすくなっていきます。10分ほどもすると、すっかり知恵ちゃんは眠りについていました。


 「……」


 目を開きます。真上には空があります。さらさらとしたものが知恵ちゃんの指に当たります。それはつかんでも指の隙間から通り抜けてゆき、触り心地で砂だと解ります。知恵ちゃんは体を起こして、辺りの風景を見回します。体の下にあるのは白い砂浜で、目の前には透明な水に満ちた海があります。


 「……」


 辺りは岩の壁でふさがれており、目の前には海しかありません。どうしようかと知恵ちゃんが考えていると、すぐ横から聞きなれた声が聞こえてきました。


 「ここから出る出口は海の中なの。水は入っても大丈夫だけど」

 「……」


 声の主へと視線を向けます。そこにあったのは渦を巻いたような形の貝殻で、中から亜理紗ちゃんの声が聞こえてきます。知恵ちゃんは貝を持ち上げ、真っ暗な貝の中へと目をこらします。


 「……アリサちゃん?」

 「アリサちゃんじゃないよ。アリサちゃんは今、宝物をベッドの下に隠してるから忙しいの。私は貝なの」

 「……なんの貝なの?」

 

 ホタテでもシジミでもない、見た事のない貝へと、知恵ちゃんは正体を尋ねます。


 「……名前はない貝だから、つけてもいいけど」

 「じゃあ、アサリちゃん」

 「アリサちゃんではないよ」

 「アリサちゃんとは言ってないんだけど……」

 「あ……」


 聞き間違えに気づき、貝は黙り込んでしまいます。


 「やっぱりアリサちゃんでしょ……」

 「アリサちゃんではないんだけど……」


                                     

                             その52の3へ続く

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