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その52の1『声の話』

 「知恵。起きて。知恵」

 「……」


 お母さんの温かな声が聞こえます。部屋の外には、すっかり朝がやってきています。すぐに起きなければと頭で理解し、知恵ちゃんはパッと目を開きました。


 「……あれ……何時?」

 「もう下にアリサちゃん来てるよ」

 「すぐ着替える」


 夏休みでした。生徒たちは朝の6時半になると校庭へと集まり、ラジオから流れる放送にあわせて体操をします。今は6時15分。知恵ちゃんは着替えだけ済ませると、玄関先で待っている亜理紗ちゃんの元へと向かいました。


 「ちーちゃん。ねぐせが凄い」

 「なおす時間がなかったの……」


 空は晴れ渡っており、太陽は一欠けなく輝いています。知恵ちゃんのお母さんも一緒に外へ出て、校庭に近い裏の道を通って学校へと向かいます。ラジオ体操へ参加するとスタンプがもらえるので、ちゃんとスタンプ用紙を持ってきているか、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは互いに確認します。


 「アリサちゃん。ハンコ、同じ数?」

 「毎日、行ってるから同じ」


 ラジオ体操は夏休みの間の10日間だけ行われ、2人のスタンプ用紙には7つのスタンプが押されています。全てのスタンプが集まるとお菓子がもらえます。お菓子も目当てではありましたが、登校のない日にみんなで集まる折角の機会なので、みんなは友達と会うためにも頑張って早起きをしています。


 「……アリサちゃんのお母さんは?」

 「今日はスタンプ係だから先に行った」


 保護者が日替わりでラジオ体操の準備をしており、今日は亜理紗ちゃんのお母さんも当番なので先に校庭で待っています。すでに校庭には多くの生徒が集まっていて、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの姿を見つけた凛ちゃんが駆けてきます。


 「おはよう!チエきち!」

 「おはよう……佐藤さん」

 「おはよう!リンリン、来るの早い」


 知恵ちゃんのお母さんは他の保護者の人たちとお話をしています。知恵ちゃんたち校舎に近い方、あまり人のいない場所でラジオ体操の放送が流れるのを待っています。いつも凛ちゃんが自分より先に来ているので、どれだけ早く起きているのかと亜理紗ちゃんは興味本位で質問します。


 「リンリン。いっつも何時に来てるの?」

 「私、いつも一番に来てるから、もう4時くらいには起きてるわよ!」

 「すごい!なんで?」

 「チエきちが寝坊したら、起こしに行かないとダメでしょ」

 「私には亜理紗ちゃんがいるから大丈夫」


 亜理紗ちゃんは登校時には寝坊する可能性がありますが、朝早いラジオ体操では必ず時間通りに起床します。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんのクラスの友達は家が少し遠い為、あまりラジオ体操にはやってきません。毎日、この3人でラジオ体操をしています。お母さんたちは校庭の隅で子どもたちを見守っており、代わりに近所のお爺さんたちが一緒に体操をします。


 『まずは元気に、伸びの運動!深呼吸!』


 ラジオ体操の歌が聞こえ、そのあとに本番が始まります。目の前で体操をしている人の動きをマネしつつ、知恵ちゃんたちも体を動かします。亜理紗ちゃんと凛ちゃんに比べて、知恵ちゃんの体は柔軟には動かず、ややぎこちなく体操をこなしています。


 「ちーちゃんは体がかたい」

 「かたいから丈夫かもしれない……」

 『ラジオ体操第2……』

 

 約3分ほどでラジオ体操は終わり、ラジオ体操の第2が始まる前に放送もストップします。列に並んで知恵ちゃんたちはスタンプを押してもらい、その後は凛ちゃんに手を振ってお別れをしました。亜理紗ちゃんのお母さんは後片付けをしているので、知恵ちゃんのお母さんが2人を連れて帰ります。


 「ちーちゃん。ラジオ体操ってさ」

 「うん」


 ラジオ体操からの帰り道。亜理紗ちゃんは何気ない口ぶりで知恵ちゃんに尋ねます。


 「……2番って、どんななの?」

 「……」


 いつもラジオ体操は第1で終わる為、知恵ちゃんも第2を聞いた事はありません。そこで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの疑問をお母さんに流します。


 「お母さん……第2って、どんななの?」

 「第2は難しいから、小学校じゃやらないんだよ」

 「……」


 お母さんの説明を受け、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんはアイドルがおどるようなダンスを漠然と思い浮かべつつ、とぼとぼと帰路を辿りました。


                                その52の2へ続く


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