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その51の4『大きい小さい話』

 空へと頭がぶつかるくらいに体は大きくなり、遠くの山にも手が届きそうです。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは木々を踏まないよう注意しながら移動し、開けた場所に立って景色をながめています。部屋の入り口も知恵ちゃんたちにあわせて大きさを変えていて、すぐに博物館の部屋へと戻れる位置で待っています。


 「アリサちゃん……どうする?戻る?」

 「もうちょっと見ていこう」


 山々を越した先には水平線が見え、その更に向こうには別の陸地が広がっています。空は依然として高いものの、星々は背伸びをすれば髪へと引っかかりそうです。ぼうっと光をあげている地面には、たまに四足歩行の動物が走っていきます。動物も植物と同じく、知恵ちゃんたちの足元にも満たない程の大きさです。


 「ちーちゃん。作文に何を書くか、決まった?」

 「全然……」


 未来の自分を思い描いてみても、知恵ちゃんにはやりたいことや、目標すらも考えつきません。ただただ大きくなっただけの、見た目も中身も変わらない自分が想像の中にいるだけです。それでも今は大きくなった分だけ、より遠くの景色が見えるようになりました。


 「あ……ちーちゃん。見て」

 「……?」


 亜理紗ちゃんがしゃがみこんで、足元に生えている木のてっぺんを指さします。木の先端にはピンク色の大きな花が咲いており、それは木を見上げていた時にはうかがい知れないかったものでした。


 「これ、さわると回る」

 「変な木だ……」


 木の上に咲いている花を亜理紗ちゃんが指で触ると、花は風車のようにクルクルと回り始めました。その一輪につられて、他の木に咲いている花もクルクルと回転します。それを見ている内、知恵ちゃんはおかしくなって笑いだしました。


 「なんなの。これ……面白い」

 「面白いね」


 木に咲いている花で遊んでいると、夜空の向こうには太陽が浮かんできました。2人は立ち上がって、朝日の光を目に入れます。海に太陽が映り込み、世界が徐々に広がっていきます。木の葉がすれるような、ガサガサとした音が聞こえました。2人は足元へと視線を落とします。


 「……?」


 光り輝いていた地面が元の黒い土色へと戻り、足元にあった木々は次第に大きくなっていきます。見る見るうちに知恵ちゃんと亜理紗ちゃんの体も小さくなって、2人は部屋に入ってきたばかりの時と同じく、巨大な木に囲まれた状態へと戻っていました。


 「アリサちゃん。出ようか」

 「うん」


 巨大な木がある部屋を出て、2人は博物館の中を一通り見学しました。そして、階段を上がった2階にある休憩室の窓から、低く並んだ街並みを見通してみます。


 「アリサちゃん。未来の自分のことなんだけど……」

 「うん」

 「……もうちょっと大きくなってから考える」

 「そっか」


 多少なりとも、大きくなったら見える世界が変わると知り、知恵ちゃんは急いで答えを出すのをやめました。しかし、そうなると作文に書くことがありません。そこで亜理紗ちゃんは、知恵ちゃんにお願いをしてみます。


 「……ちーちゃんも、私のこと、作文に書いたら?」

 「え……なんで?」

 「そうしたら、ずっと一緒だし」


 知恵ちゃんは窓の外にある景色へと目を泳がせ、ちょっとだけ考えます。亜理紗ちゃんと過ごした今までと、これからの事を想像します。その後、亜理紗ちゃんに1歩だけ近寄って、照れくさそうに笑いながら小さく頷いて見せました。


                                 その52へ続く


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