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その51の1『大きい小さい話』

 「『未来の自分』というお題で作文を書いて、次の国語の授業までに出してください」


 知恵ちゃんの教室では国語の授業が始まり、担任の先生が原稿用紙を配っています。たくさんのマスが印刷されている用紙を2枚もらい、知恵ちゃんはマスの数を目で数えて、どのくらい文字を書かなければならないのかを調べています。


 国語の授業の前半では、教科書に掲載されている作品の音読をしていきます。その内容は少年が未来の自分の姿を想像するというもので、様々な姿に成長した自分を思い描く短い物語です。音読が終わると、先生は作文の書き方などを説明します。そして、授業の後半は作文を書く時間とされました。


 「……」


 ただ考えていても鉛筆が働かないと思い、知恵ちゃんは適当に文字を書き始めてみます。なりたい職業に限らず、どのような人間になりたいか、何をしたいのかを書いてもいいとは先生も言っていましたが、それを含めても知恵ちゃんには思い描く未来がありません。


 『私は背の高さが200センチくらいほしいです』

 「……」


 知恵ちゃんはクラスでも背が小さい方なので、高い身長が欲しい気持ちです。しかし、それを正直に書いてみたところで、なにやら夢と現実感のない文章ができあがるだけでした。最低でも原稿用紙の1枚半は書かなければならない訳で、身長の件だけでは文字の数が足りません。


 『できるだけ頭もいい方がいいです』

 「……」


 そう書いてみましたが、すると相応に勉強をしなくてはならないことに気づき、すぐに消しゴムで原稿用紙をこすりました。結局、授業中に作文は完成せず、来週の国語の授業までの宿題となりました。


 「知恵ちゃん。書けた?」

 「まだだけど、百合ちゃんは?」

 「私は、うちがお菓子屋さんだから、それを書いたの」


 国語の授業が終わって休み時間になり、同じクラスの百合ちゃんが知恵ちゃんに声をかけました。百合ちゃんの家はお菓子屋さんなので、大人になったら家の手伝いをすると決めています。知恵ちゃんとは違って悩む必要はなく、滞りなく作文は完成した様子です。そこへ、作文の用紙を持って桜ちゃんもやってきます。


 「知恵、まだ書けてない?私も、まだ終わってないけど、半分は書けたよ」

 「桜ちゃん、なにかなりたいものとかあるんだっけ?」

 「そういうのはないけど……」

 

 桜ちゃんから将来の話などを聞いたことがなかったので、どのようなことを書いたのかと参考までに知恵ちゃんは聞いてみます。桜ちゃんは知恵ちゃんに顔を近づけて、やや声を小さくして伝えました。

 

 「実は、さっきの授業で気づいたんだけど……」

 「……うん」

 「……作文用紙の上の方で文を終わらせると、行をたくさん使えるんだ」

 「……」

 「むずかしそうな漢字はひらがなで書いても、きっと許してもらえる……」

 「桜ちゃん……」


 活用するかはともかく、桜ちゃんのアドバイスを知恵ちゃんは頭にだけは入れておきました。放課後、友達の亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの教室まで迎えに来てくれます。亜理紗ちゃんのクラスでも同じ宿題が出たので、どのようなことを書いたのか学校からの帰り道で相談してみます。


 「アリサちゃん。どんなこと書いたの?」

 「私はね……今の友達と、ずっと仲良しならいいなって書いた」

 「そういうのでもいいんだ……」

 「ちーちゃんとも、ずっと仲良しでいたいの」

 「アリサちゃん……」

 

 自分のことが書かれていると知り、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの書いた作文を見せてもらいます。原稿用紙2枚分の内、その3分の1が『ちーちゃん』で埋まっている事実を知り、どことなく知恵ちゃんは桜ちゃんの助言を思い出しました。


                              その51の2へ続く


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