表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
159/367

その50『炎の話』

 ストーブの炎が揺れています。亜理紗ちゃんの部屋にある、小さな石油ストーブの中で、黒と赤の炎が燃えています。今日は雪が降っており、雪遊びをしていられないほどに強く吹雪いています。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはストーブの近くに座って、手元にある小さなゲーム機の画面を見つめています。


 「アリサちゃん。ちょっとストーブ、弱められる?」

 「下げる?」


 ストーブの熱が肌へと当たり、まるで火へと直に触れているようにしびれてきます。亜理紗ちゃんは慎重な手つきでストーブのダイヤルを回し、ちょっとだけ火を弱めてみます。大きく燃えていた火は勢いを弱め、ストーブについている小さなガラス窓の奥に収まっています。


 知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは、それぞれ別のゲーム機を手に持っています。2人で協力して遊んでいる訳でもなく、対戦をしている訳でもありません。でも、たまに画面を見せ合って、互いに進行状況を共有します。


 「……ちーちゃん。今度は火、弱い?」

 「……たぶん、大丈夫」


 先程までの強い火で肌がマヒして、火の温度が足りていないように感じます。でも、慣れてくれば寒くなくなってくるのを感覚で知っているので、亜理紗ちゃんはストーブの火を調整せずに炎の様子だけ確かめました。


 「……アリサ。ストーブ、大丈夫?」

 「うん。今のところは大丈夫」


 お父さんが部屋へとやってきて、ストーブの火が安全かを確かめていきます。ストーブが調子よさそうに燃えているのをのぞき、すぐにお父さんはリビングへと戻っていきました。ゲームに行き詰まってしまい、知恵ちゃんはゲーム機を横に置いて、ストーブの中にある火へと目を向けました。


 「アリサちゃん。ゲーム、進んでる?」

 「結構、お金が集まってきてる。もう少しで、1アップするかもしれない」


 ストーブの火にあわせて、部屋の蛍光灯がチラつきます。不思議そうに知恵ちゃんが蛍光灯を見上げると、気を引き締めるようにして蛍光灯はチラつきを抑えました。ストーブの火へと視線を戻します。ストーブの中の黒い火が、次第に赤色の炎へと変化していきます。火の中に火が重なって、たまに火は弾けて、空気に押されて揺れています。


 「……」


 ストーブの中の炎をじっとながめている内、意識が炎の中に入っていきます。知恵ちゃんは熱さで目を閉じました。閉じた瞳の中にも、まだ炎の赤い色が残っています。


 「……!」


 次に知恵ちゃんが目を開いた時には、もう目の前にはストーブはありませんでした。亜理紗ちゃんの部屋も真っ暗になっています。その代わりに、暗闇の中には赤い花が咲いていました。燃えるように光る、赤い花です。


 「アリサちゃん。これ……」

 「……わっ、なにこれ?」


 ゲームの画面から顔を上げ、亜理紗ちゃんも前で咲いている赤い花に気づきます。花は一輪だけですが、暗闇の中で精いっぱいに赤い光を放ちます。知恵ちゃんは近くに置いていたカバンを見つけ、カバンについているキーホルダーの石が輝いているのを発見しました。


 「ちーちゃん。これ、花?」

 「花なの?」


 亜理紗ちゃんが花へ向けて、ゆっくりと手のひらを差し出してみます。熱くはありませんでしたが、ほのかに温かみを感じます。そこへ、強い風が吹きました。凛としていた花が大きく揺れ、まるで光を分け与えるようにして2つに増えます。


 そこから一気に花の灯りは広がっていき、遠くまで続く花畑へと変わりました。大きな赤と、小さな青の花びらが舞い、熱気をまとって空へと昇っていきます。


 「……」


 寒さも熱さも感じぬまま、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは花たちの光を見つめていました。そこへ、戸をノックする音が聞こえてきます。ふっと部屋には蛍光灯の光が戻り、暗闇の中からストーブが現れます。今度は亜理紗ちゃんのお母さんが戸を開き、お盆に乗せたジュースを部屋のテーブルへと置きます。


 「アリサ。外、ちょっと雪が弱まってきたよ」

 「本当?」


 お母さんに教えてもらい、亜理紗ちゃんは部屋のカーテンを開いてみます。前が見えないほどに降り続いていた雪は勢いを弱め、今は小さい粉のような雪が降るばかりです。少しだけ亜理紗ちゃんは壁にかけてあるジャンバーを見ますが、やっぱりストーブの前に戻ってきて座り込みました。


 「まだちょっと、ゲームしてる」

 「そう?遊びに行く時は、ちゃんとストーブ消してね」


 亜理紗ちゃんのお母さんが部屋を出ていきます。知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは手にゲームを持ったまま、ストーブの中で燃えている炎をじっとながめていました。


                               その51へ続く



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ