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その49の3『のぞきあなの話』

 海の景色の中にいた灰色の何かが見たい一心で、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは部屋へと戻ってきました。先程と同じ立ち位置を心がけつつ、2人は再びツツの中へ目を向けます。しかし、どちらを向いても、青い森の続く限り一面の森です。


 「ちーちゃん。やっぱり山です」

 「山だったか……」

 「このポスター入れは今、山の気分みたい」


 いつか、ツツの気分が海に戻るのではないかと期待を込めて、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは仕方なく山の観察を始めます。山の景色の中に生き物の気配はなく、見えているものは木の幹と葉、青い空くらいです。さすがに動く物がないとのぞいていても面白みに欠ける為、段々と亜理紗ちゃんはツツをのぞくのに飽きてきました。


 「ちーちゃん。私、ちょっと休むね」

 「うん……」


 亜理紗ちゃんはツツを知恵ちゃんに渡し、つつの中を見ている知恵ちゃんの姿を横で見物しています。のぞいている知恵ちゃんの方はといえば、海にいた灰色のものが今も気になっており、山のどこかに海がありはしないかと頑張って探しています。


 「……ん?」


 一瞬、森の中で何か動いたように感じ、知恵ちゃんは木の葉の動きに注意を向けます。ガサガサと木の葉が動いています。


 「……」


 木のガサガサは次第に増え、あちらもこちらもガサガサしています。もはや、風景の中にある全ての木がガサガサを始めていて、音も徐々に大きくなっていきます。


 「……アリサちゃん。なにかいる!」

 「なに?」

 「……わ……わあぁ!」


 ガサガサと動いていた木々が一斉に根を出して歩き始め、知恵ちゃんの持っているツツの方へ行進してきます。木そのものが生きていると知り、ビックリした知恵ちゃんはツツを空の方へと動かします。空はグネグネと模様を変え、ぽっかりと開いた口から舌を伸ばしました。木と同様、空も生きています。


 「わあぁ!」

 「どうしたの、ちーちゃん!」


 急いで亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの持っているツツに目を押しつけます。でも、その時には既に景色は変わっていて、ジャングルらしき場所が映し出されていました。知恵ちゃんがマバタキをした瞬間に風景が変化しており、いつ切り替わったのかは知恵ちゃんにも解りません。


 「……あれ?ちーちゃん……また変わった?」

 「……よかった。変わって」


 ジャングルの中央を流れる川は土や木を押し流す勢いで、様々な色の花や葉がキラキラと散っては川に流されていきます。その中を、虹色に光る大きなものが流れていきました。


 「……ちーちゃん。今のなに?」

 「……わかんない」


 それ以降、正体不明の虹色は流されてきません。風景はキレイですが、あまりにキラキラチカチカしているので、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは目が疲れてきました。一旦、休憩をはさみます。


 「ちーちゃん。どうしたら海に戻るかな」

 「私も海が見たい……」

 「もう一回、私は山も見たいんだけど……」

 「山はいい……」


 山の生き物たちは怖かったので、もう知恵ちゃんは見たくありません。どうすればツツが海を見せてくれるのか考えた末、2人はツツに手をあわせてお願いをしました。


 「……お願いします」

 「……お願いします」


 目の疲れがとれてきたところで、改めて2人はツツを持ち上げました。ツツの中へと目をのぞかせると、待ちかねていた海の景色が映し出されました。


 「ちーちゃん!海だ!」

 「やった!」


 海の中には今も、灰色をした大きな何かが泳いでいます。ツツの先をどちらに動かしても、やっぱり灰色の肌と、バタバタ動かしている足くらいしか見えません。


 「これ、なんなんだろう……」

 「うん。なんだろう……」


 日が暮れる前には正体を突き止めたいと、それからも亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは穴の奥へと目を凝らしていました。でも、やっぱり灰色の物体が何なのかは解りません。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは、ぽつりと疑問を口にします。


 「ちーちゃん。これ、なんだろう」

 「なんだろう……」


 ツツの奥に映る海の中で、灰色の何かがジタバタを続けています。ずっとジタバタしています。それを2人は真剣に見つめています。


 「なんだこれは」

 「なんだろう……」


 結局、それが何かは解らないまま、無情にも日は暮れていきました。


                                その50へ続く


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