その49の2『のぞきあなの話』
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは金の魚を探していますが、もう遠くへ行ってしまったのか尾ひれの影すら発見できません。その内、ツツの中に映っている景色が暗くなり、別の何かが強引に視界へと入ってきました。
「……ちーちゃん。なにこれ?」
「なんだろう」
灰色の大きな岩らしきものが映っています。ツツの先をどちらへ動かしてみても、引き続き灰色しか確認できません。ぐっとツツを引いて、下の方を映してみます。バタバタと忙しなく動いている大きな足のようなものが映ります。しばらく考えた後、亜理紗ちゃんは1つ予想を口にしました。
「……ゾウかな?」
「海にいるの?ゾウって」
「きっといない」
じっくりと観察を続けます。灰色のものは大きい体をしているようで、どこを映しても灰色の肌しかうかがい知れません。亜理紗ちゃんはツツを持ったまま後ろに下がって、全体像をとらえようとします。しかし、部屋の壁際まで下がってしまうと、今度はツツの中に映る世界が海から出てしまいます。
「しまった。出ちゃった」
「アリサちゃん。前に戻ってみよう」
もう一度、ツツの中に見えている世界を海の中へと戻します。先程と同じく、忙しく体を動かしながら泳いでいる灰色の何かが写り込みます。その姿を見つめ、今度は知恵ちゃんが予想を1つ出します。
「……くじらじゃないの?」
「くじらって、足あるの?」
「きっとない……」
泳いでいるような動きから見て、泳いで遠ざかっていけば見える姿も小さくなると考え、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは辛抱強く灰色の何かを見つめています。しかし、じたばたと体を動かしてはいるものの、灰色の何かは泳いでいるようで移動はしません。ずっと同じ場所で体を動かしています。
「……ちーちゃん。これは、おぼれてるんじゃないの?」
「でも、ずっと沈まないけど」
「なんだこれは」
「なんだろう……」
おぼれているのかとも亜理紗ちゃんは考えますが、灰色の何かは足の動きを適度に変えて、器用に浮かんでいるのがうかがえます。泳いではいますが進んではおらず、浮かんではいますが上がってもいきません。
「なんだこれは」
「なんだろう……」
ツツの先をぐりぐりと回してみても、どうしても灰色のものの上部分が見えてきません。そこで、亜理紗ちゃんは自分の立ち位置が悪いのではないかと考えました。
「ちーちゃん。お外、行こう」
「外?」
「お庭」
ポスターの入っていたツツを持って、亜理紗ちゃんは玄関へと走っていきます。クツをはいて外へ出ると、そのまま2人は亜理紗ちゃんの家の庭へと移動しました。
「ここから部屋の方を見れば、ちょっと変わるかも」
「そっか」
やっと灰色のものの正体が明らかになる。ちょっとドキドキしながらも、亜理紗ちゃんはツツの中をのぞき込みます。
「……」
ツツの先は亜理紗ちゃんの部屋がある方へと向けられていますが、その中を通しても亜理紗ちゃんの家の壁は見えません。そして、青い海も映りません。その代わり、見た事のないうっそうと森が、ツツの中を介して見受けられました。
「ちーちゃん。森になった……」
「え……」
「海がなくなって森になった……」
どちらへツツの先を動かして見ても、もう海は全く見つかりません。知恵ちゃんもツツの中をのぞき込みます。亜理紗ちゃんの言う通り、つつの奥にある景色は一変して森になっています。
「アリサちゃん。これ……」
「森です」
「……さっきの灰色のは?」
「……残念ですが」
その49の3へ続く






