その49の1『のぞきあなの話』
「アリサちゃん。あれ、なにが入ってるの?」
「どれ?」
今日は知恵ちゃんが亜理紗ちゃんの家へと遊びに来ており、2人でベッドに寝転がりながら同じ本を読んでいました。亜理紗ちゃんが本をめくる係なのですが、そのスピードがやや早いので、知恵ちゃんがページを戻したりしています。漫画を1冊だけ読み終わったところで、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの机の横に、硬めの紙で作られた茶色いツツが立ててあるのを見つけます。
「あれはね。ハガキを送って当たったポスター」
「なんのポスター?」
「アニメの」
ツツの両はしにあるフタを開けて縦にすると、丸められたポスターが中から滑り出てきました。それを広げてみます。ポスターには日曜日の朝に放送されているアニメのイラストが印刷されていて、放送開始日や放送時間なども丁寧に書かれています。
「すごい。本物だ」
「へへ……」
「どこに貼るの?」
「まだ考えてない」
珍しいものを見たとばかり、知恵ちゃんは広げたポスターの絵を観賞しています。亜理紗ちゃんはポスターの入っていたツツを剣のように持って、それで勉強机の角をポンポンと叩いています。知恵ちゃんはポスターを丸めて亜理紗ちゃんに返しますが、亜理紗ちゃんはポスターの入っていた硬い紙のツツで遊びたくなってしまい、つつの中をのぞきながら穴の先を知恵ちゃんの顔に向けています。
「……ちーちゃんを発見。ピピピピ」
「……なにごっこなの」
「ロボットごっこ」
「……?」
亜理紗ちゃんが視線を通している方とは逆の穴から、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの目を見つめます。でも、そちらからは亜理紗ちゃんの顔が見えず、何か別のものが写り込んでいました。
「……アリサちゃん。こっちからのぞいてみて」
「……?」
亜理紗ちゃんがツツをひっくり返して、逆側の穴へと視線をもぐりこませます。しばらくはツツの向きを変えてみたり、ツツから目を離してみたりしていましたが、やっとツツの向こう側にあるものが解ったという口ぶりで、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに伝えました。
「つつの向こう側に、海があるみたい」
「もう1回、見せて」
「いいよ」
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは顔をくっつけながら、2人で同時にツツの穴の向こう側をのぞきます。ツツの奥にある小さな丸の中には、緑がかった青色が光っています。耳をすませてみれば、波の音すらも耳に届きました。
「ちーちゃん。これ……もしかして」
「……?」
「前に進んだら、海の中も見えるんじゃないの?」
「やってみよう」
つつの中を見つめながらも、亜理紗ちゃんは何歩か前に歩いてみます。ツツの先を下へと向けます。ザザッと音がして、つつの向こう側に見えている風景が切り変わります。その直後、穴の向こう側を何か、ひらひらとした金色のものが通っていきました。すぐに亜理紗ちゃんはツツの先を動かして、その金色のものの居場所を探し始めます。
「どこいったんだろう……」
「もっと上に行かなかった?」
「……あ、いた!」
ツツの先をあげてみます。穴の向こう側は水の中に入っており、たまに気泡らしきものがツツの先に当たります。その奥に、金色の長い体をした、魚のような生き物を発見しました。体の全体は確認できぬ間に、また魚は体をうねらせて視界から消えていきます。
「アリサちゃん……あれ、なんだろう」
「う~ん……」
「……?」
金色の体と、少しだけ見えた尾ひれらしきもの。それらをふまえて、亜理紗ちゃんは答えを出しました。
「……金魚じゃない?」
「……金魚か」
その49の2へ続く






