その47の2『雲の中の話』
「……」
どこかに横たわっています。でも、背中には感触がなく、まるで水に浮いているようです。知恵ちゃんは遠ざかっていく眠気の中、ゆっくりと目を開きます。
「……ん」
目の先には青空があります。周りにはもやがかかっていて、体を起こしてみると周りにも白い煙が立ち込めてるのが解ります。すぐとなりに亜理紗ちゃんが眠っているのを見つけ、知恵ちゃん優しく体をゆすって起こします。
「アリサちゃん。起きて」
「……んん?」
あまりの寝心地のよさに、なかなか亜理紗ちゃんは起きません。それでも粘り強く揺すり続け、やっと亜理紗ちゃんはまぶたを開きました。
「……ちーちゃん。ここ、どこ?」
「……どこだろう」
周囲に漂っている白いもやは手を動かすと左右に流れ、奥にも更に白いもやが続いています。地面の固さはクツの裏に感じられませんが、2人は難なく立ち上がることができました。そのまま、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは白いもやをかきわけて、恐る恐る先へと進んでいきます。
「……?」
白いもやの先へ行くと、光る棒が横に伸びています。その半透明な棒を亜理紗ちゃんは両手でつかんでみます。半透明な白い棒は固くて、力を入れても曲がりません。足元にも同じようなものが浮いていて、それ以上は先に進めないようになっています。
棒が続く先にそって、横へと歩いていきます。途中で棒の曲がっている場所があり、その先は下り坂になっています。足を1つ下ろすと、ふわっと白いもやが開け、2人の眼下には小さな家々や木々といった、どこか見慣れた街並みが広がりました。
「高い……」
「高い……」
白いもやでできた下り坂は街の中にある家の1つまで続いていて、その家の屋根は緑色です。家の近くに学校が見つかり、亜理紗ちゃんは緑色の屋根の家が自分の家だと知りました。白いもやでできた道は庭の方から伸び、2人の今いる場所まで繋がっています。
「ちーちゃん……これ」
「雲の中にいる」
自分たちのいる場所が雲の中だと知り、改めて足踏みをしてみます。足を押し込めば沈みますが、下へと落ちてしまう心配はありません。雲のはしっこや下り坂には白い光の棒があり、それを乗り越えなければ落っこちてしまうこともありませんでした。
「ちーちゃん。どうやって、ここ来たんだろう」
亜理紗ちゃんは少しだけ下り坂をおりて、自分の家の庭へと目を凝らします。遠くて詳細には見えませんが、そこにはテーブルとイス、それと2人の飲んでいたお茶が残されていると考えられました。
「……お茶から出る煙が、ここまで上がってきてるのかな」
お母さんの入れてくれた紅茶から昇る湯気、それに乗って雲の中まで来たのだと亜理紗ちゃんは知恵ちゃんに言います。信じられないとばかりに知恵ちゃんは街並みを見渡します。遠い景色の中にある長い煙突からも煙が昇っていて、煙突の上にも大きな雲ができていました。
「ちーちゃんの家の屋根……ピンク」
「うん」
他の家に比べて自分たちの家の屋根が派手なことに改めて気づきつつ、2人は他に知っている場所がないかと探して、雲の中を歩き始めました。そして、亜理紗ちゃんは雲の下に広がっている街並みの中へ指を向けました。
「ちーちゃん。あれ」
「……どれ?」
光の棒につかまりながら、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが指さしているものを探します。でも、そこに何があるのか知恵ちゃんには解りません。ちょっとだけ考えた末に、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに聞いてみます。
「あそこ、なにかあったっけ?」
「五郎丸の家」
「……誰?」
「犬」
亜理紗ちゃんの指先をなぞること数分、やっと知恵ちゃんは小さな犬小屋が発見しました。
その47の3へ続く






