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その46の3『終わらない話』

 粘土に似た材質の壁へ、亜理紗ちゃんは部屋にある様々なものを壁に押しつけてみます。その押した跡にはキレイなくぼみが残り、くぼみには時間と共に色がついていきます。まるで、ハンコをおしたように物のあとが残ります。


 「私、他の部屋から物を持ってくる」

 「あ……私も行く」


 亜理紗ちゃんが遊んでいるのを見て面白そうに思った知恵ちゃんは、他に押しつけるものがないかと別の部屋へ探しに行きます。1階の廊下にある戸棚にはカップラーメンが入っていて、それをいくつか借りていきます。念のため、お母さんにも借りていくと声をかけました。


 「食べるの?お湯がないとダメだよ」

 「食べないけど、ちょっと借りるだけ」


 押しつけて遊べそうなものがないかと、リビングにある物も見ていきます。野菜や果物をじかに押しつけるのは気が引けたのか、なるべく固くて汚れても問題なさそうなものを見繕います。キレイな色がついていて、形が複雑なものが最適です。


 「ちーちゃん。これは?」

 「リモコンはないと困るからダメ……」


 洗濯ばさみやハンガー、飾ってある小物など、鮮やかな色のものをいくつか借りていきます。それを持って部屋へと戻り、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは一つずつ、持ってきた物を柔らかな壁へと押しつけてみました。


 「ちーちゃん。カップラーメン」

 「すごい。カップの絵も出てきた」


 押しつけたカップラーメンのくぼみには、カップに印刷された絵も浮き出て、とても本物とそっくりになりました。押しつけた場所は手触りまで物と同じになるので、お皿を洗うスポンジは表面のゴワゴワとした感触まで、そっくりそのまま壁にコピーされています。


 「これ、やわらかいものもできるかも」

 「クッションもやってみる?」

 「うん」


 そう思いつき、亜理紗ちゃんはクッションを壁につけてみます。さすがに壁はクッションと同じ柔らかさにはなりませんでしたが、しっかりとクッションの模様まで壁に浮かび出てきます。あらかた、手身近にあるものは型を取りつくし、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが遊んでいるのを後ろで見ています。


 「アリサちゃん。楽しい?」

 「うん。すごい!見て見て!」


 洗濯ばさみのあとをたくさんつけて、壁に模様を作っています。それからも亜理紗ちゃんは物を壁に押しつけては、うれしそうに知恵ちゃんへと見せています。何時間も遊んでいる内、壁は押しつけた物のあとでいっぱいになってしまいました。


 「もう押せなくなった……」

 「まだ押したいの?」

 「うん」


 高い所までは手が届かないので、天井の近くに残っている空白を亜理紗ちゃんは見つめています。すると、灰色の壁はスッと透明になっていき、その奥から知恵ちゃんの部屋の壁が透けて出てきました。


 「ああ……」


 まだ型を取っていない小物を手にしながら、亜理紗ちゃんは残念そうにベッドへと腰を下ろしました。知恵ちゃんの部屋の壁は完全に元へと戻り、物を押しつけたあとなども全く残ってはおりません。窓の外には夕日が差しています。部屋の外から、知恵ちゃんのお母さんの声が聞こえてきました。


 「アリサちゃん。そろそろ、お母さんが帰ってきてって言ってたよ」

 「……解りました」


 亜理紗ちゃんはハンコをビニール袋に入れ、家に帰る準備を始めます。再度、部屋を出る前に灰色の壁があった場所に目を向けます。まだまだ遊び足りない亜理紗ちゃんに対して、知恵ちゃんは紫の石を持ち上げながら言いました。


 「また今度、出てくるかもしれないし」

 「……そっか。うん」


 今度、また灰色の壁で遊べるようにと石にお願いし、その日は亜理紗ちゃんは自分の家へと帰りました。 



                               その46の4へ続く

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