その46の1『終わらない話』
学校が終わり、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは家へと帰ります。今日は桜ちゃんや百合ちゃん、凛ちゃんも家の用事があるらしく、雑談をする間もなくお別れとなりました。学校からの帰り道にて、亜理紗ちゃんは家に帰ってから何をするのかと知恵ちゃんに聞きます。
「ちーちゃん。今日、遊ぶ?」
「なにして遊ぶの?」
「……」
一緒に絵を描くのは、つい昨日しました。ヨーヨーで遊ぶのも、昨日しました。一昨日は駄菓子屋さんへ行きました。すごろくも一昨日しました。マンガも全て読み終わりました。散歩も近場では、もうする場所がありません。ずっと今週は知恵ちゃんと亜理紗ちゃんで一緒に過ごしたので、もうお話する内容すら考えつきません。
「ちーちゃん。なにもすることがない。スタンプだ……」
「スタンプするの?」
「……そうだ!スタンプだ!」
スランプの言い間違えから、亜理紗ちゃんはスタンプで遊ぼうと決めました。亜理紗ちゃんは自分の部屋にあるスタンプをありったけ探し出して、ビニール袋に入れて知恵ちゃんの家に持って行きます。
「こんなにあった」
「こんなにあったの?」
亜理紗ちゃんがテーブルの上に並べたスタンプは40個ほどもあって、キャラクターの絵が描かれているものや、文字が掘ってあるものもあります。その中に細長いハンコがあり、その先には『川島』という文字があります。
「アリサちゃん。これ……インカンじゃないの?」
「なにそれ?」
「私も、よく解んないけど」
亜理紗ちゃんが持ってきたハンコの中に印鑑を見つけ、そっと知恵ちゃんはビニール袋に戻します。でも、亜理紗ちゃんの苗字は島村ではないので、それも含めて知恵ちゃんは疑問を浮かべた表情をしていました。
「ちーちゃん。これ紙」
「紙あるけど」
「もちもちした紙の方が押してて楽しいの」
うすいコピー用紙を持ってきた知恵ちゃんに、亜理紗ちゃんはスケッチブックの用紙を渡します。スケッチブックの紙は、ふんわりと分厚くて、指で押すと少し潰れます。亜理紗ちゃんのオススメを受けて、知恵ちゃんはハンコを画用紙に強く押し込みます。
「キレイに押せない」
「押してから、ぐりぐりするとキレイに押せるんだけど」
ハンコを押しつけてから、すぐには離さずグリグリと回すように力をこめます。すると、ちゃんとハンコの外枠までキレイに印字することができました。あとは何を話すでもなく、2人はインクをつけてはハンコを押し、またつけてはハンコを押し、紙の隅から隅まで押していきます。かなりの数を押したので、知恵ちゃんが一息ついている一方、亜理紗ちゃんは押し終わった紙を裏返しにして再び押していきます。
「アリサちゃん。楽しい?」
「楽しすぎて大変」
知恵ちゃんはハンコを押すのに疲れてしまいましたが、亜理紗ちゃんは真剣な表情でハンコを押し続けます。どのようなハンコが他にあるのか、知恵ちゃんは並んでいるハンコをながめています。なぜか、同じハンコが2つもある事に気づき、その理由を亜理紗ちゃんに尋ねました。
「なんか、おんなじのが、たくさんあるけど」
「それはね。ちーちゃんが好きそうだから、たくさんもってきたの」
「アリサちゃん……」
自分の為に持ってきてくれたと聞き、ちょっとうれしそうに知恵ちゃんはハンコを手に取ります。それから、ビニール袋の中にカプセルに入ったハンコがあるのを知り、それを取り出しました。カプセルを開けてみます。そこにも、先程のものと同じハンコが入っていました。
「ガチャガチャで、3つ当たったの」
「アリサちゃん……」
その46の2へ続く






