その45の1『洞窟の話』
「ちーちゃん。ほらあながある」
「え……」
ある日、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは家の近所にある広場で遊んでいました。その場所は、いつもは幼稚園の先生たちが駐車場として使っているのですが、今日は土曜日なので車は1台も停まっておりません。その奥にある草むらにかくれた場所、ブロック塀の下の方に、ごつごつとした岩でできた穴がありました。
「ちーちゃん。これ、見た事ある?」
「ないけど……幼稚園に行く近道なんじゃないの?」
「幼稚園の先生、こんなとこ通る?」
「……絶対に通らない」
穴は亜理紗ちゃんと知恵ちゃんが屈めば通れそうな大きさで、幼稚園の先生が通り抜けようとすれば服が汚れてしまいます。うすいブロック塀の反対側には家が建っていますが、洞窟の奥は暗闇になっていて家の壁は見えません。どこへ繋がっているのか、亜理紗ちゃんは気になる様子で中をのぞいています。
「懐中電灯があれば行けそうだけど」
「え……行くの?」
「……ちーちゃん。それは?」
知恵ちゃんのカバンについているキーホルダーの石が、電球のようにピカピカと光っています。その光があれば中を探検できると考え、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんにお願いしました。
「行ってみたい」
「アリサちゃん。ボール探すんじゃないの?」
「この中に入ったかもしれないし」
亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは家にあったオモチャのテニスで遊んでいたのですが、遊んでいる内にボールがなくなってしまったので探しているところでした。亜理紗ちゃんの言う通り、テニスのボールは洞窟の中に入ってしまったかもしれません。でも、洞窟は得体が知れないので知恵ちゃんは入りたくありません。
「……もうちょっとボール、探してみよう」
「見つからなかったら入るの?」
「……考える」
その後、すぐにボールは見つかり、また亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはボールをラケットで打って遊び始めます。その後、お昼ごはんの時間が近づいてきたので、2人はバトミントンを終えて家に帰ることにしました。その前に、もう一度だけ洞窟を見て帰ろうと亜理紗ちゃんは言います。
「……ちーちゃん。ほらあな……まだあります……ありました」
「なんで小声なの……」
結局、洞窟の中にボールが入った訳でもなかったので、2人も洞窟へは入らずに家に帰ります。また午後に遊ぶ約束をして亜理紗ちゃんと別れ、知恵ちゃんは自分の家のリビングへと向かいました。
知恵ちゃんのお母さんは録画した料理番組を見ており、その内容にちなんで昼食もカルボナーラスパゲッティです。知恵ちゃんが帰ってから10分ほどで昼食ができあがり、お母さんと知恵ちゃんは一緒にご飯を食べます。
「いただきます」
「いただきます」
スパゲッティは牛乳ではなく豆乳を使ったもので、通常のものよりも少し甘い仕上がりです。ふりかけてあるコショウにやや偏りがあり、口に入れた知恵ちゃんがむせています。
「大丈夫?よくかき混ぜて」
「うん」
ドロドロのカルボナーラをフォークでかきまぜながら、ふと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に見つけた洞窟のことを思い出しました。きっと、この後も亜理紗ちゃんは洞窟を見に行くと言うはずです。その時にどうしたらいいのかと、知恵ちゃんはお母さんに相談しました。
「お母さん。洞窟があったら、入る?」
「ええ?入らないよ。くずれてきたら危ないし」
「だよね」
お母さんから洞窟に入らなくていいお墨付きをもらい、知恵ちゃんは昼食を食べ終えました。その後、今度はナワトビを持って知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に広場へ行きます。
「ちーちゃん。ほらあなは?」
「くずれると危ないから、入らない方がいいって」
「じゃあ、見るだけ」
見るだけならと、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは草むらの奥を確認します。そこにある洞窟は少しだけ姿を変えていて、岩でできていた壁が金属に変わっています。洞窟というよりも、トンネルといった見た目です。
「ちーちゃん……ほらあなが強くなった」
「……あれ」
その45の2へ続く






