表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
142/367

その44の7『たまごの話』

 大きく成長したティラノサウルスの散歩を終えて、知恵ちゃんは昨日の本の続きを読み始めました。それから、戸をノックする音が聞こえてきます。亜理紗ちゃんのお母さんが、お菓子とジュースを部屋に持ってきてくれました。


 「知恵ちゃん。これ食べてね」

 「ありがとうございます」

 「アリサ。それ、部屋にあってジャマじゃないの?」

 「ジャマじゃないからいいんだけど」


 亜理紗ちゃんのお母さんは勉強机の上に置いてある石を指さし、また変なものを持ち込んでとばかりに亜理紗ちゃんへと注意します。でも、亜理紗ちゃんはティラノサウルスを手放したくないので、体を使って守るようにしてお母さんから隠していました。


 「変なものばかり持ち込むんだから。飽きたら捨ててくるんだよ」


 お母さんが部屋から出ていくと、亜理紗ちゃんもお皿に乗ったお菓子に手を出します。その中の1つをティラノサウルスの前に置いてあげますが、ティラノサウルスは口がないので食べることはできません。じっとお菓子を見つめて、それから亜理紗ちゃんの顔を見上げました。


 「でも、アリサちゃん。ティラノサウルス、もっと大きくなったら、どうするの?」

 「車庫に置く」

 「車が置けなくなるでしょ……」

 「おっきくなったら、車の代わりに乗れるからいいの」

 「そんなに速く走れないでしょ……」


 亜理紗ちゃんが無茶を言いますが、知恵ちゃんもティラノサウルスがいなくなるのはイヤなので、どうしたらいいかと困ったように考えています。すると、亜理紗ちゃんは急に犬のモモコの話を始めました。


 「モモコちゃんって、もう大きくならない?」

 「たぶん」

 「ティラノサウルスも、もう大きくならないかもしれない」

 「……そうかも」


 ティラノサウルスは急激に大きくなった為、これで成長は終わったのではないかと亜理紗ちゃんは言います。そこで、2人はもう少しティラノサウルスの様子を見てみる事にしました。今日のところは知恵ちゃんも家に帰ります。次の日の朝、いつもよりも5分ほど遅く、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家へと迎えにやってきました。


 「おはよう。何かあった?」

 「ティラノサウルスを物置に隠してきた……」

 「そんなに大きくなったんだ……」


 ティラノサウルスは昨日よりも更に大きくなり、部屋に置いておくとお母さんに叱られるほどでした。なので、亜理紗ちゃんは学校へ行く前に庭の物置へと運び、隠してから知恵ちゃんの家にやってきました。


 「帰ったら、もっと大きくなってるんじゃないの?」

 「また、どこか隠す場所を探さないと」


 学校が終わり、2人はティラノサウルスの様子を気にして、すぐに家へと帰ります。ランドセルを背負ったまま、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に物置を見に行きます。


 「あれ……」

 「どこに置いたの?」


 物置の中に置いたティラノサウルスはいなくなっていて、その場所には亜理紗ちゃんが一緒に置いたタンポポの花びらだけが残されています。すぐに亜理紗ちゃんは自分の部屋も見に行ってみましたが、どこにもティラノサウルスの姿はありません。

 

 「どこに行ったんだろう」

 「私、ちょっとランドセルを置いてくる」

 

 亜理紗ちゃんは家の中を隅々まで探しますが、ティラノサウルスは見つかりません。お母さんに石のことを聞いてみても、亜理紗ちゃんのお母さんは知らないと言います。やはり家の外にいるのかと、2人は家の前を探し始めました。すると、そこにタンポポの花びらが落ちているのに気づきました。


 「アリサちゃん。あっちにも落ちてる」

 「外に出ていったのかな……」


 ぽつりぽつりと落ちているタンポポの花びらを追って、2人は道路を歩いていきます。花びらの最後の1枚は公園の前に落ちており、公園の地面には大きなものを引きずったような跡が残っていました。それを見て、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはティラノサウルスが別の世界へと帰ったのだと気づきました。


 「アリサちゃんの家にいたら、ジャマになると思ったのかな」

 「別にいてもよかったのに……」


 ティラノサウルスが産まれた石を見つけた場所、その近くの草むらが、少しだけかき分けられていました。そこにしゃがみ込んで姿を探します。でも、ティラノサウルスは見つかりません。


 「……いない」

 「……」


 もうティラノサウルスが、この世界にいないことを知って、亜理紗ちゃんは草むらの中に拾ってきた花びらを置きました。それから亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの横にしゃがみ込んだまま、声を出さずに、ずっとうつむいていました。


                                 その45へ続く


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ