その44の6『たまごの話』
なんとかお母さんにバレず、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんはティラノサウルスを部屋に持ち帰りました。そろそろ空も暗くなってきたので、今日のところは知恵ちゃんも家に帰ることにします。
「また明日、見に来ていい?」
「いいよ」
勉強机の上に乗ったティラノサウルスとアイサツをして、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの部屋を出ていきます。知恵ちゃんの家の前には犬のモモコがいて、知恵ちゃんのお母さんはモモコを散歩につれて行くところでした。
「お母さん。私も行く」
「行くの?」
「うん」
知恵ちゃんはモモコの引きヒモを持っても力で負けてしまうので、モモコを連れて歩くお母さんの横で見ているだけです。でも、ちょっとだけでも生き物のお世話をする参考にしようと、知恵ちゃんはモモコとお母さんの姿をながめながら勉強していました。
「そうだ。お母さん、トカゲって飼ったことある?」
「ないない。カエルだってないよ」
「だよね」
「誰か飼ってるの?」
「そうじゃないけど」
家の近くを10分ほど歩いて、お母さんと知恵ちゃんは家へと帰ってきました。知恵ちゃんは家の玄関でモモコの足をふいてあげて、体をキレイにしてからリビングへと連れて行ってあげます。お母さんは散歩の後始末をしてから、台所で晩ご飯の準備を始めました。知恵ちゃんも自分の部屋へ向かい、夕食までの間に学校の宿題を済ませてしまうことにしました。
次の日の朝、また亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家へと迎えに来ました。そして、すぐに亜理紗ちゃんはティラノサウルスの話を始めます。
「ティラノサウルス。朝に見てみたら、ちょっと大きくなってた」
「そうなの?」
「ちーちゃんも、学校が終わったら見に来て」
『ちょっと』と言いながらも、亜理紗ちゃんは手をいっぱいに広げていて、昨日は指先に乗る程度の大きさだったので、一晩で格段に成長したことが伝わります。最初はティラノサウルスを苦手に思っていた知恵ちゃんも、一日が経って思考の整理がついたようで、その日の授業中はずっとティラノサウルスのことを考えていました。
学校が終わって家に帰ると、すぐに知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの家を訪ねました。アリサちゃんの部屋の勉強机には大きな石が乗っており、それはバスケットボールほども大きさがあります。見た目は漬物をつけるのにも使えそうなほどです。
「……これ、ティラノサウルスなの?」
「また大きくなった」
知恵ちゃんが石を左右からながめている内、石は丸めていた体をのばして顔や尻尾を出しました。昨日の時点ではトカゲと呼べる大きさでしたが、ここまで大きくなるとさすがにトカゲとは言えません。
「アリサちゃん。今日も散歩に行く?」
「バケツに入れてみる」
ティラノサウルスはバケツにはギリギリ入る程度の大きさかつ、かなり重さもあります。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは2人で協力してバケツを持ち、お母さんに見つからないよう家を出ます。しかし、昨日とは違って長い距離を運ぶ事はできず、家を一周しただけで部屋へと戻ってきました。知恵ちゃんは疲れた息を吐き出しながら、バケツをテーブルの上へと置きます。
「はあ……すごい重たくなった。大変……」
「ちーちゃんの家のモモコちゃんみたいに、ヒモをつけたら自分で歩いてくれるかな?」
そう亜理紗ちゃんに言われ、知恵ちゃんはモモコの散歩を思い出します。モモコは外を歩くのが好きなので、胴輪につながったヒモの許す限り、自分で先へと進んでいきます。でも、ティラノサウルスはバケツから出してじゅうたんの上に置いても、全く動く気配はありません。ただ、目をパチパチさせながら2人を見つめているだけです。
「そうだ。あれをつけよう」
亜理紗ちゃんは机からリボンを取り出し、ティラノサウルスのお腹に巻きつけます。それを犬の引きヒモのようにして持ってみるのですが、やっぱりティラノサウルスは自分では歩かないので、犬と同じようには散歩できません。
「ダメだ。動かない……」
「ただオシャレになっただけ……」
その44の7へ続く






