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その44の5『たまごの話』

 勉強机の上にいるティラノサウルスは、見ていてもほとんど動きません。たまに目を開いたりはしますが、すぐに体を丸めてしまいます。


 「寒いのかな?」

 「今日、そんなに寒くないけど」


 寒いせいで動かないのかと心配して、亜理紗ちゃんはティラノサウルスを重ねたティッシュの上の置きました。ティラノサウルスは体を揺すって、ティッシュの中へともぐっていきます。知恵ちゃんは虫かごを見つめながら、何かに入れておいた方がいいのではないかと話します。


 「入れ物に入れた方がいいんじゃないの?」

 「動かないから大丈夫じゃない?」


 石のように動かないので、入れ物には入れないでおく事となりました。その後もティラノサウルスは身動きをとらず、もう中腰で勉強机の上を見つめるのに疲れた知恵ちゃんは、すわりこんで亜理紗ちゃんの部屋にある本を読み始めました。亜理紗ちゃんはティラノサウルスをずっと見つめていて、何か動きがあるたびに知恵ちゃんへと声をかけます。


 「ねえ、ちーちゃん」

 「んん?」

 「……やっぱり、散歩とか連れて行った方がいいのかな?」

 「なんで?」

 「モモコちゃんは散歩してるし」


 亜理紗ちゃんは生き物を飼ったことがありませんでしたので、どのように生き物へと接したらいいのか解りません。そこで、家で犬を飼っている知恵ちゃんに聞いてみたのですが、当の知恵ちゃんも犬のモモコを一人で散歩につれていった経験はありません。


 「モモコは大きいから、私だけだと散歩にいけないし。そんなに解らないけど」

 「じゃあ、バケツを持ってくるから、とにかく外に行こう」


 亜理紗ちゃんが部屋の外からバケツを探してきて、それにティッシュごとティラノサウルスを移し替えました。知恵ちゃんも読んでいる本を本棚に戻して、亜理紗ちゃんと一緒に家を出ました。


 今日も雲が見えないくらい天気はよく、かわいた風が優しく吹いています。しばらく2人は家の周りをあてもなく歩いていましたが、曲がり角へ差し掛かったところで、ティラノサウルスの産まれた石が落ちていた公園へ行こうと決めました。


 「持って歩いてるけど……それ、散歩になってるの?」

 「どこかに出そう」


 公園に到着すると、亜理紗ちゃんは花壇の近くにしゃがみ込み、花壇をふちどっているレンガの上にティラノサウルスをのせました。家の外に出ても、やっぱりティラノサウルスは動きません。でも、ぱっちりと目を開いて、花壇に咲いている花を見上げています。


 「ちーちゃん。きっと、ティラノサウルスは、お花が好き」

 「草食だ」


 ティラノサウルスが肉食の恐竜か草食の恐竜か知恵ちゃんは知りませんが、どちらにせよ口がないので花を食べたい訳ではない事は見て解りました。30分ほどティラノサウルスと一緒に花を楽しんだので、そろそろ帰ろうと知恵ちゃんは亜理紗ちゃんに言います。


 「帰る?」

 「……帰ろっか」


 ティラノサウルスをバケツに戻し、傾いている太陽をあおぎ見ながら2人は家へと歩き出しました。その途中で、亜理紗ちゃんは道路のすみに咲いているタンポポを見つけ、その花びらを何枚か取ってバケツへと入れました。


 「ティラノサウルスのおみやげに持って帰る」

 「うん」


 ティラノサウルスが花が好きなのだと思い、亜理紗ちゃんは花びらを持って帰ることにしました。家の前では亜理紗ちゃんのお母さんが庭の手入れをしていて、バケツを持った亜理紗ちゃんを見つけると声をかけました。


 「アリサ。どこまで遊びに行ったの?」

 「あ……公園」

 「バケツを持って?」


 このままではティラノサウルスが見つかってしまう。そう考えた亜理紗ちゃんは、知恵ちゃんの顔を少し見てから、適当な言い訳を作ってお母さんに返しました。


 「あの……ちーちゃんと、バケツかぶり大会してた……」

 「アリサ……あやしい遊びはやめなさい」


                              その44の6へ続く


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