その44の4『たまごの話』
学校が終わると、すぐに2人は家へと帰り、知恵ちゃんも家にランドセルを置いてから石の様子を見に行きます。亜理紗ちゃんのお母さんに家へと入れてもらい、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんの部屋の戸をノックして声をかけます。
「アリサちゃん。いる?」
「……ちーちゃん!大変だ!石が割れてる!」
戸を開いた亜理紗ちゃんは知恵ちゃんを部屋に招き入れ、勉強机の上に置いてある石を指さしました。石は真ん中から2つに割れていて、その中には何かが入っていたかのように穴があいています。
「ちーちゃん。もしや、産まれたのかもしれない……」
「何が?」
「わかんない」
石に入っていたものが出て来たのではないかと考え、2人は部屋の中に何か生き物の姿を探し始めました。亜理紗ちゃんは机の周りに目を配っていて、知恵ちゃんは怖がる素振りでテーブルの近くをながめています。亜理紗ちゃんは机と壁の隙間を見て、知恵ちゃんの名前を呼びました。
「ちーちゃん。なにかあったんだけど」
「……?」
勉強机と壁の間、そのせまい場所に、白っぽい灰色をしたカタマリが落ちています。カタマリの大きさは指先に乗る程度で、丸みを帯びた表面には光沢があります。2人が見つめていると、そのカタマリは重たげに動き出しました。
「……!」
カタマリが動いたのを見て後ずさった知恵ちゃんに代わり、亜理紗ちゃんがカタマリに顔を近づけてみます。カタマリは、ゆっくりと体を伸ばし、顔と短い尻尾を出しました。石のような見た目から考えて、そのトカゲのような生き物のは石から出てきのだと亜理紗ちゃんは思いました。
「ちーちゃん。ちっちゃい石の恐竜だ!」
「恐竜?」
恐竜がいると亜理紗ちゃんから聞き、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの後ろから謎の物体を確認します。
「トカゲじゃないの?」
恐竜というにはいささか小さい為、知恵ちゃんはトカゲなのではないかと疑問を抱いています。その生き物は逃げもせず、その場に留まったまま、黒い瞳で亜理紗ちゃんと知恵ちゃんを見つめています。そうっと、亜理紗ちゃんは生き物に手を伸ばしました。
「かまれない?」
「でも、口ないし……」
「ひっかかれるかも」
「ツメもないから、きっと大丈夫」
トカゲに目はありますが、口のようなものはありません。手も小さくて、ツメらしきものも見当たりません。その胴体をつまみ上げて、亜理紗ちゃんは勉強机の上に乗せました。トカゲは割れた石の近くまで時間をかけて歩くと、その場でクルリと体を丸めてしまいました。
「アリサちゃん……どうする?」
「どうするって?」
「外に逃がした方がいいんじゃないの?」
「ええ……やだ」
せっかく産まれた恐竜なので、亜理紗ちゃんは家に置いておきたい気持ちです。首を横に振って逃がしたくないと知恵ちゃんに伝え、割れた石の片方を恐竜に被せて、その姿を隠してしまいました。
「こうしたら逃げないし、悪いこともしないから大丈夫」
「でも、お母さんに怒られない?」
「見つからないようにするから……ちーちゃん。言わないで」
亜理紗ちゃんにお願いされ、知恵ちゃんは再び割れた石を持ち上げて、中にいた恐竜の姿を観察します。眠っているのか、恐竜は目を閉じて丸まったまま、身動きの一つもしません。危険な生き物ではないと考え、知恵ちゃんも家に置いておいて大丈夫と判断しました。
「うん。お母さんには言わない」
「じゃあ、名前をつけよう」
部屋に恐竜を置いておくのが決まり、なんと呼ぶのか2人は考え始めました。知恵ちゃんには名前が考えつかなかった為、どんな名前にするのかは亜理紗ちゃんにゆだねます。
「トカゲ。名前、何にするの?」
「そうだなぁ……」
「……」
「……ティラノサウルス」
「どうしても恐竜って事にしたいんだ……」
その44の5へ続く






