その44の3『たまごの話』
ひろってきた石にペンで色をぬり、それを机の上に飾ってみました。これならお母さんからも不要なものだとは判断されないと考え、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは安心して漫画などを読み始めます。
「……ん?」
「……どうしたの?」
ベッドで寝転んでいた亜理紗ちゃんが起き上がり、勉強机の上に置いた石を見つめます。知恵ちゃんも横に立って石の様子を観察しますが、特に変わったところはありません。恐る恐る、亜理紗ちゃんが石に触ってみます。
「……お」
亜理紗ちゃんの指先が石に当たると、石はお皿として置いているティッシュの上から転がり落ちました。亜理紗ちゃんが揺らしたから落ちたようにも見えましたが、その後も石は自分の力で揺れ動き続けます。勉強机から落ちてしまわないよう、亜理紗ちゃんは石をベッドへと運んで行きます。
「アリサちゃん。それ、自分で動いてるの?」
「うん。動いてる」
石の中に生き物がいるのではないかと、亜理紗ちゃんは枕の上に置いて観察しています。中から怖いものが出てくるとイヤなので、知恵ちゃんはテーブルの向こうから様子をうかがっていました。石が本物の卵になっていたらと考え、亜理紗ちゃんは石の中身を知恵ちゃんと予想しています。
「産まれるかな……ちーちゃん。なにが産まれたらいい?」
「なんだろう……鳥?」
「鳥って、カラス?」
「すずめがいい」
カラスは大きくて危ないので、小さな鳥がいいと知恵ちゃんは言います。亜理紗ちゃんも何が産まれてきてほしいか考えてみましたが、卵から生まれる生き物が鳥と魚と虫しか思いつかず、下手に答えると知恵ちゃんに指摘されてしまいそうなのでやめました。その代わり、たまごから生まれてきそうな生き物の名前を口にします。
「ちーちゃん。たぬきって、たまごだっけ?」
「たぬきさんは、たまごじゃないよ」
「そっか……」
「……?」
もうすぐ産まれてくるかもしれない。そう楽しみにしながら亜理紗ちゃんは石を見守っていたのですが、コトコトと動くだけで一向に割れる気配はありません。結局、その日は石に変化がなく、窓の外には真っ赤な夕陽の光が満ちていきました。部屋の戸をノックする音がして、それから亜理紗ちゃんのお母さんが部屋の外から知恵ちゃんに声をかけました。
「知恵ちゃん。そろそろ、おうちに帰った方がいいよ」
「はい。アリサちゃん。私、帰るね」
「うん。じゃあね。ちーちゃん」
家に帰ったあとも、知恵ちゃんは動く石がどうなったのかと気になっていました。次の日の朝、いつものように亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家へと迎えに来てくれて、2人で一緒に学校へと歩き出します。知恵ちゃんに聞かれるより早く、亜理紗ちゃんは石について知恵ちゃんへと話し始めます。
「昨日ね。ずっと見てたけど、産まれてこなかったんだ」
「温めてみた?」
「なんで?」
「たまごって、温めた方が産まれやすいって、お母さんに聞いた」
どうしたら産まれてくるのかと考え、知恵ちゃんもお父さんとお母さんに卵の話を聞いていました。亜理紗ちゃんは卵を温めるという発想がなかった為、学校が終わって家に帰ったら試してみようと考えます。
「ちーちゃん。温めるって、お鍋に入れればいいの?」
「ゆで卵になっちゃうんじゃないの?」
「……電子レンジ?」
「それは多分、爆発する……」
その44の4へ続く






