その44の1『たまごの話』
知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは学校が終わって家に帰ると、近くの駄菓子屋さんへと買い物に行きました。知恵ちゃんはクシにささったカステラを買い、亜理紗ちゃんは駄菓子屋さんのおばあさんのオススメで、ヒモの形をした長いグミを買いました。
「……長い」
公園の水道で手を洗ってから、2人はベンチで休みつつお菓子を食べました。亜理紗ちゃんの買ったグミは1メートルほどもあり、少しずつ食べながら袋から出していくのですが、まだまだグミのシッポは出てきません。その内、知恵ちゃんの方が先に食べ終わってしまい、手にはカステラのさしてあった串が残りました。
「……ちーちゃん。ちょっとあげる?」
「いいの?」
「いいよ」
亜理紗ちゃんは長いグミを適度な長さにちぎって、知恵ちゃんの持っているクシの先に玉結びで巻きつけました。亜理紗ちゃんはクシの先に結ばれたグミを指さして言います。
「グミのムチ」
「アリサちゃん……玉結びできたんだ」
「玉結びは簡単。ナワトビも玉結びにするから」
ムチを持たされたことよりも、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんが玉結びできることに驚いています。亜理紗ちゃんは蝶々結びができないので、今日もクツのヒモは左右のバランスが整っておりません。
「ああ……もうちょっとでグミが終わる」
「ムチとか作って遊んでるから……」
グミは食べるにつれて色が変わっていき、色にあわせて最初はグレープ味、次はオレンジといったように味も変化していきます。そして、ついにグミのシッポが袋から出てきました。食べ終わった袋やクシをカバンに入れ、2人は公園の中を歩き始めます。
「お花だ」
「アリサちゃんのうちにも、これ咲いてたっけ?」
「ううん。多分、ない」
花壇にはキレイに花が咲いていて、それは亜理紗ちゃんの家の庭に生えていない植物です。今日は天気もいい為、花から花へとチョウチョが飛び回っているのが見てとれます。
「……あ」
花を観察している知恵ちゃんの横で、亜理紗ちゃんは何か見つけたように声を出しました。花壇に咲いている花の根元に手を伸ばし、亜理紗ちゃんは手のひらサイズの丸い石を持ち上げました。
「ちーちゃん。石」
「うん。石だけど……」
「……なんか、いい石じゃない?」
「いい石ってなんなの……」
知恵ちゃんは石の評価に困ってしまいますが、それは汚れの1つもないキレイな灰色をしていて、形もニワトリの卵のように丸々としています。花壇の中には他に石は入っておらず、それはどこかから紛れ込んだもののようです。石の手触りを楽しみながら、亜理紗ちゃんは蛇口まで持って行って石を洗い始めました。
「洗ってどうするの?」
「持って帰る」
「持って帰ってどうするの?」
「ちーちゃん……お母さんみたいなこと言う」
『持って帰ってどうするの』は、亜理紗ちゃんがお母さんによく言われるセリフで、それがある事によって亜理紗ちゃんの部屋は物で溢れずに済んでいます。でも、この石はどうしても持って帰りたいので、亜理紗ちゃんは強引に石の使い道を考えます。
「紙が風で飛ばないように、これを上に置いておくの」
「じゃあ、丸くない方がいいと思うけど……」
「転がしても遊べるし……」
「どっちなの……」
家に持って帰っても全く使い道がなく、困った亜理紗ちゃんは苦し紛れに石の用途を説明しました。
「……家にかざる」
「……公園にあった石を?」
その44の2へ続く






