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その43の4『夜明けの話』

 亜理紗ちゃんのお父さんが、腕につけている時計へと目をやります。それを見て、亜理紗ちゃんはお父さんに現在の時刻を尋ねました。


 「今、何時くらい?」

 「4時40分くらい。そろそろ明るくなってきてもいいんだけど」


 かすかに海の向こうは明るんでいますが、まだ太陽は姿を現しません。お魚も一向に釣れる気配はなく、たまに知恵ちゃんのお父さんが釣り糸を揺らしてみたり、エサのゴカイが針についているか確かめたりしているだけです。その内、亜理紗ちゃんは思い出したようにバケツの水をのぞきこみました。


 「お父さん。バケツの水、新しいの入れないの?」

 「どうして?」

 「温かくないか見る」


 知恵ちゃんのお父さんがバケツに入っている水を流し出し、バケツをロープで下ろして新しい海水をくみ上げます。新鮮になった水に亜理紗ちゃんは手を入れてみますが、それは手が震えてしまうくらいの冷たさです。すぐに亜理紗ちゃんは手をバケツから出して、コンビニからもらったおしぼりで水をふきました。

 

 「ちーちゃん。おふろみたいにはなってないよ」

 「やっぱりそうなんだ」

 「……なんで水の温度を調べたの?」


 亜理紗ちゃんのお父さんに尋ねられ、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは昨日の話を思い出しながら伝えます。海から太陽が出てきそうなので、亜理紗ちゃんは太陽で海が熱くなっていないかを確認したのですが、それを聞いた知恵ちゃんのお父さんは笑いながら答えました。


 「そんなに熱くはならないよ。だって、太陽は宇宙にあるからね」

 「ああ。地球の外を動いてて、海から出てくるように見えるだけだよ」

 「そうだったんだ!」


 お父さんたちの説明を聞いて、亜理紗ちゃんと知恵ちゃんは漠然とながらも太陽が遠くにある事実を知りました。遠くの空は白く明るんでいて、そろそろ太陽が顔を出す頃合いです。


 「……あれ?これ、引っかかってないですか?」

 「……また掛かっちゃったかな」


 釣り竿の糸が2本とも、やや張り詰めた動きをしています。亜理紗ちゃんのお父さんと知恵ちゃんのお父さんは釣り竿を持ち上げ、知恵ちゃんのお父さんのアドバイス通りに釣り竿を上げたり下げたりしています。


 「何度か引っ張ってみてください」

 「こうですか?」

 「……取れなさそうですね」


 お父さんたちが釣り竿を何度も引いてみます。それでも、なかなか引っかかった針は取れません。知恵ちゃんのお父さんは糸を切るのもやむを得ないとしつつ、最後にもう一度だけ強く釣り竿を持ち上げました。


 「……よいしょ」

 「……あっ。ちーちゃん。太陽だ」

 

 お父さんたちが釣り竿を強く引いたと同時に、きらめく太陽が海の向こうから顔を出しました。すると、2本の釣り竿は急に先が軽くなります。釣り糸を巻き上げてみると、エサのなくなった釣り針だけが糸の先に残っていました。それを見て、亜理紗ちゃんは頭の見えてきた太陽よりも、釣り竿の方を見ながら言いました。


 「お父さんたちで、太陽を釣ったの?」

 「いやいや」

 「さすがに、それは無理でしょう」


 照れ笑いしているお父さんたちの後ろで、知恵ちゃんはカメラを構えて画面越しに太陽を見つめます。画面は強い光にあてられ真っ白になっており、カメラを通すと何が写っているのか解りません。それを見て、知恵ちゃんは先程の白くぼやけた写真を思い出しました。


 「……あ」


 白くぼやけた写真は、どことなく目の前にある夜明けのシーンに似ています。写真の日時は、ちょうど1年前で、撮られた時刻も今とほとんど違いません。知恵ちゃんは1年前の朝日と、今年の朝日を見比べるようにして、カメラを水平線へと向けて構えました。


                                 その44へ続く

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