その42『ふわふわの話』
「おやすみなさい」
夜、亜理紗ちゃんはお父さんとお母さんに『おやすみなさい』をして、自分の部屋にあるベッドへと入りました。亜理紗ちゃんのベッドは広くはありませんが、寝相の悪い亜理紗ちゃんが転がっても落ちない程度には大きさがあります。でも、電気を消して布団に入った時、亜理紗ちゃんは背中の感触に違和感をおぼえました。
「……」
少しだけ、気にしなければならない程度、ベッドの中にあるスプリングの固さが背中に当たります。ベッドの上で飛んだり跳ねたりして遊んだ回数は多くありませんが、亜理紗ちゃんの寝相が悪いのでベッドが傷んできています。
亜理紗ちゃんは寝る場所をずらしてみます。ベッドは壁にくっつける形で置かれていて、あまり使っていない壁際ではない方は、寝心地が悪くありません。そこは隣の家に住んでいる友達の知恵ちゃんが、よく座ったり寝転がったりしている場所です。ふと、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家のベッドを思い出しました。
知恵ちゃんの部屋のベッドは体が沈み込むくらい柔らかくて、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんと一緒に遊んでいて眠ってしまうこともありました。亜理紗ちゃんの部屋のベッドと比べてみて、あれには何が入っているのだろうと、亜理紗ちゃんはベッドの中身を想像し始めます。
亜理紗ちゃんのベッドはギュッと押すと、すぐに戻ってくるベッドです。触り心地はケーキのスポンジに似ています。そんなスポンジベッドの感触を確かめるようにして、亜理紗ちゃんは寝返りをうってみます。亜理紗ちゃんのベッドにはサクがないので、壁の方で寝ていないと落ちてしまいそうです。
「……ん~」
知恵ちゃんのベッドの柔らかさを思い返してみます。それは上に乗ると、体の形にあわせて沈み込むベッドです。それでいて背中にはワタのような柔らかさが伝い、ふわふわの気持ちに包まれます。そこで、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんのベッドを羊さんベッドと名付けました。
少しでも寝心地がよくなるように、亜理紗ちゃんは羊さんの上で寝ているイメージを探してみます。亜理紗ちゃんは羊さんに触ったことはありませんので、テレビや絵で見た限りで想像を広げます。でも、どんなに想像を働かせても、ベッドの感触は変わりません。亜理紗ちゃんは目を開きました。
「……」
亜理紗ちゃんは知恵ちゃんと遊んでいると、よく不思議な出来事に見舞われます。でも、アリサちゃんが1人でいる時は、そういった体験をすることもありません。知恵ちゃんの持っている紫の石が関係しているのは、知恵ちゃんも亜理紗ちゃんも気づいていますしたが、あまり亜理紗ちゃんの方に石は構ってくれません。
「ちーちゃん……」
窓を開けて隣の家を見てみます。2階にある知恵ちゃんの部屋は電気が消えていて、このくらいの時間には知恵ちゃんも眠っていると、本人から話には聞いていました。亜理紗ちゃんは布団に入りなおして、再び寝心地のいい位置を探します。亜理紗ちゃんの部屋の外では、リビングにいるお父さんやお母さんの足跡が聞こえいます。
ベッドの上で目をつむっている内、亜理紗ちゃんの呼吸は段々と深くなっていきました。そんな夢見心地の中で、今までとは違った、ふかふかとしたベッドの柔らかさが背中に感じられました。
「羊さん……」
亜理紗ちゃんの耳には、何か動物の鳴き声が聞こえています。ゆったりとした動きで、ベッドが揺れているのが伝わります。それに気づくか気づかないか、知らず知らずのうちに、亜理紗ちゃんは自然と眠りについていました。
その43へ続く






