その41の4『プリンターの話』
知恵ちゃんたちはサッカーボールマンが勝手に動き回らないように閉じ込めていましたが、動いたからといって悪さをするとも限りません。そこで、試しにバケツの外へ出してみようと考えました。知恵ちゃんも亜理紗ちゃんの後ろへ移動して、そちらからサッカーボールマンの動向を見守ります。
「じゃあ、開けるよ?」
「うん」
亜理紗ちゃんがバケツを持ち上げます。サッカーボールマンはバケツの下から飛び出すと、ピョンピョンとはねながら庭を歩いていきます。でも、日向へ出たと同時に立ち止まり、陽の光を浴びて動かなくなってしまいました。
「ちーちゃん。太陽に負けた」
「熱さに弱い」
サッカーボールマンが陽の光を浴びると動けなくなると知り、改めて2人は庭をながめてみます。降り続いていた雪は弱くなってきており、庭の大部分は陽の当たる場所となっています。これでは動ける範囲も多くありません。でも、むしろ勝手に家の庭から出ていく心配もないと、知恵ちゃんは安心したように言います。
「どこか出ていったら見た人がビックリするけど、これだったら出ていかないけど」
「う~ん……」
ここから出られないと解ると、それはそれで亜理紗ちゃんは納得がいかないといった表情です。どうにかして、サッカーボールマンを陽の下へ出せないかと考え始めます。
「……そうだ。ちーちゃん。あれ作ろう」
「あれ?」
「おまんじゅう」
ごはん大盛りより少し多いくらいの雪を集め、形を整えてからバケツをかぶせます。しばらくしてバケツを取ると、中には大きめの雪まんじゅうができていました。
「サッカーボールマンも作りなおすよ」
大きめの雪まんじゅうは横に置いておいて、亜理紗ちゃんは溶けているサッカーボールマンを運んできました。雪と一緒にバケツへ入れてサッカーボールマンを修理すると、亜理紗ちゃんは雪まんじゅうをサッカーボールマンの頭に乗せました。
「おまんじゅうボウシがあれば、きっと暑くても大丈夫」
「おお」
雪まんじゅうを被ったサッカーボールマンは少し重たげにグラグラしていましたが、それが頭になじんでくると、ジャンプしながら庭を歩きだします。ボウシをかぶっているので、陽の下にいても、すぐには溶けずに動くことができました。
「アリサちゃんのおまんじゅうが、やっと役に立った」
「へへ……」
おまんじゅうを知恵ちゃんにほめられて、亜理紗ちゃんは満足そうです。だけど、天気がよくなってきたので雪まんじゅうも太陽の攻撃に耐えられず、やっぱりしばらくすると溶けて始めてしまいました。どうしてもサッカーボールマンが元気に歩けず、亜理紗ちゃんはボウシよりもいい物がないかと考えています。
「カサとかの方がいいのかな……」
「かまくらとか作る?」
「そうだ!ちーちゃん、頭いい!」
知恵ちゃんの意見を受けて、亜理紗ちゃんはカマクラを作る事にしました。かまくらとは言っても、サッカーボールマンが入るだけの小さなカマクラなので、そこまで作るのに時間はかかりません。でも、作っている内に日差しは強くなって、もう今は庭全体に陽の光が行きわたっています。
「じゃあ、入れるね」
溶けたサッカーボールマンを下の雪ごと持ってきて、亜理紗ちゃんはカマクラの中に入れてあげます。すると、溶けたサッカーボールマンは雪を集めて復活し、かまくらの中でくつろぎ始めました。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんの後ろから、亜理紗ちゃんのお母さんが窓越しに亜理紗ちゃんを呼びます。
「そろそろお昼ごはん食べに出かけるよ。いいところで家に来てね」
「うん」
これでサッカーボールマンともお別れです。亜理紗ちゃんと知恵ちゃんがカマクラの前から立ち上がると、サッカーボールマンはカマクラの中から見送るようにして顔をのぞかせました。
「ちーちゃん。私、帰るね」
「うん」
「サッカーボールマンも、またね」
亜理紗ちゃんは近くにあったバケツを横にして置き、いつでもサッカーボールマンが元の世界に戻れるようにします。そして、かまくらの表面を少しだけ雪で補強してから、2人は自分の家へと帰っていきました。
その42へ続く






