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その9の1『誕生日の話』

 「アリサちゃん。誕生日おめでとう」

 「ありがとう。ちーちゃん」

 

 知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは同じ8月生まれでしたが、誕生日は亜理紗ちゃんが3日、知恵ちゃんが少し離れて27日である為、ほぼ一カ月分だけ亜理紗ちゃんがお姉さんです。誕生日プレゼントを用意はしてありますが、今日は平日なので学校が終わってから知恵ちゃんは渡す事にしました。

 

 「学校が終わったら、晩ご飯まで誕生日会をやるよ!お母さんがケーキを作ってくれるから、ちーちゃんも来て」

 「うん」

 

 2人は別のクラスなので、学校についたら一旦はお別れです。その日は全校朝会があり、学校のチャイムが鳴ると生徒たちは廊下へ整列し、一組から順番に体育館へと移動を始めました。知恵ちゃんはクラスの女子の中でも身長が高い方ではなく、どちらかといえば小学校低学年に見える容姿をしています。


 「……」


 体育館にクラス順で並び、知恵ちゃんの隣の列は一つ上の小学4年生です。4年生の先輩たちは知恵ちゃんと一つしか歳の違わない生徒ですが、どの生徒も知恵ちゃんに比べると大人びており、何を思ってか知恵ちゃんは背伸びをしながら体育館の時計を見つめました。時計を見る頻度が多いほど、時間が経つのは遅く体感されます。

 校長先生のお話は短かったものの、その内容は知恵ちゃんの心に入ってきません。近頃、サッカー部の活躍が目覚ましいという先生からの報告だけを心に残し、知恵ちゃんや他の生徒たちは教室へと戻っていきました。

 廊下を歩いている途中、亜理紗ちゃんが他のクラスの生徒と楽しげに会話している姿が見え、それを知恵ちゃんは目で追うようにして、でも人の列に流されるようにして、少しの間だけ見つめていました。

 

 「知恵ちゃん。宿題のプリントやった?」

 「やったよ」

 「私もやったー」

 

 クラスに戻ってからの短い休み時間、知恵ちゃんは同じクラスの友達2人に話しかけられました。プリントについて確認した子は百合ちゃんといい、どことなく育ちの良さを感じさせる雰囲気の女の子です。百合ちゃんの他、桜ちゃんも知恵ちゃんと仲の良い友達なのですが、この二人と凛ちゃんは友達ではないので、どことなく仲間に入りたそうな凛ちゃんのジッとした視線が知恵ちゃんに注がれています。


 「あの。今日、百合がうちに遊びに来るけど、知恵も来る?」

 「今日は亜理紗ちゃんの誕生日だから、誕生日パーティするの」

 「じゃあ、恋愛キャンディーガールの一巻、次の土曜日に貸してあげるから」

 「うん」


 そう言っている桜ちゃんは少しミーハーな面があり、オシャレな雑貨やドラマの原作漫画などを集めるのが好きな女の子です。新しく買った漫画が面白かったという会話から、その一巻を貸してくれる約束となりました。

 その日、どことなく知恵ちゃんは落ち着かない様子で、それに加えて天気の良さから気温も高く、世界全体が熱気を帯びたような一日でした。放課後、いつものように亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの学級まで帰りの迎えに来ていて、でも今日は亜理紗ちゃんの友達も一緒でした。


 「ちーちゃん。今日、未来ちゃんと静江ちゃんも来るって」

 「そうなんだ」

 「私と静江は一回、家に帰ってから行くね。知恵ちゃんは亜理紗の家から近いの?」

 「うん。けっこう近い」

 

 亜理紗ちゃんの友達2人は知恵ちゃんの友達よりも少し活発な印象で、どちらも知恵ちゃんと遊んだことのある子でした。知恵ちゃんの方も特に苦手意識がなく、誕生日会に二人が同席しても苦はありません。そんな二人と学校の前で別れ、知恵ちゃんと亜理紗ちゃんは寄り道もなく家へと帰りました。

 知恵ちゃんは自分の部屋から誕生日プレゼントが入った箱を持ち出すと、お母さんに行き先を告げてから亜理紗ちゃんの家に行きました。知恵ちゃんは着替えずに亜理紗ちゃんの家に来ましたが、亜理紗ちゃんは家に帰ってすぐにシャワーを浴びていた為、亜理紗ちゃんのお母さんにジュースを出してもらってリビングで待つことにしました。


 「……あっ。あれがない」

 

 冷蔵庫の中を見つめていた亜理紗ちゃんのお母さんは何かを買い忘れていたことに気づき、家を出るためにカバンや鍵の用意を始めました。そして、シャワーを終えた亜理紗ちゃんの体をバスタオルで磨いて服を着せると、2人に留守番を頼んで買い物へと出かけてしまいました。


 「ちーちゃん。なに飲んでるの?」

 「青りんごジュース」

 「私も飲む」


 亜理紗ちゃんは冷蔵庫からジュースを取り出し、知恵ちゃんの隣のイスに腰を下ろします。知恵ちゃんは手に持っていたリボン付きの箱をテーブルの上に置いて、亜理紗ちゃんがジュースの缶から口を離すまで待っていました。

 

 「アリサちゃん。誕生日プレゼント」

 「ほんと?ありがとう!開けていい?」

 「うん……」

 

 亜理紗ちゃんがリボンをほどいて、箱の中身を取り出します。その表情を見つめ、知恵ちゃんは部屋の時計へ目を向けました。もうすぐ、亜理紗ちゃんの友達もやってくる時間です。


                                     その2へ続く


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― 新着の感想 ―
[一言] なんとなーくぼんやりと読んでいたら、亜理紗ちゃんが8月の3日が誕生日という部分で、「あっ、私も誕生日一緒だw」とちょっと嬉しくなりました。 8月3日にまだ学校がある部分(平日なので)で、北…
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