その41の2『プリンターの話』
つめた雪がバケツから出てこないので、それは逆さまにしたまま置いておいて、今度は別の入れ物に雪をつめて形を作ってみます。
「ちーちゃん、何か持ってる?」
「プリンの入れ物」
「プリンの雪、できるかな?」
知恵ちゃんは食べ終わったプリンのカップを洗って持ってきていて、れの中に柔らかな雪が固くなるまで、いっぱいに入れていきます。プリンのカップの底にはお皿へ出すための小さな空気穴があいているので、バケツの時とは違って逆さにすると簡単に雪が出てきました。
「……むむ」
知恵ちゃんがプリンのカップから雪を取り出しますが、雪がカップの底に残ってしまって、亜理紗ちゃんが期待したほどプリンの形にはなりません。同じ形のものをたくさん作る計画は上手く行きませんが、折角なので持ってきている他の容器も全て試してみることにします。
「ダメだ……キレイにならない」
亜理紗ちゃんが色々な容器に雪を入れてみましたが、どれもキレイな形には固まって出てきません。残っている入れ物はガチャガチャから出てくる、丸いカプセルだけです。亜理紗ちゃんはカプセルの下半分を知恵ちゃんにあげて、その中に雪を入れていきます。
「……ちーちゃん。丸い雪だ」
「ほんとだ」
カプセルに入れた雪を押してみます。すると、つるりと滑るようにして雪が取り出せました。雪は半分にしたカプセルの形にそって半球になっていて、まるで白いおまんじゅうのようです。丸い容器なら形づくりが成功すると解り、亜理紗ちゃんは黙々とカプセルの形の雪を作っては、それを積もった雪の上に並べていきます。
「これ、おまんじゅうプリンター工場だ」
亜理紗ちゃんは雪のおまんじゅうを大量生産し、カプセルには『おまんじゅうプリンター工場』と名付けました。知恵ちゃんからカプセルを返してもらい、それを亜理紗ちゃんはポケットへしまいます。でも、食べれないおまんじゅうが幾らあっても、飾る以外に使い道がありません。そこで、知恵ちゃんは雪のおまんじゅうとおまんじゅうを合体させて、丸い雪の玉を完成させました。
「雪玉」
「つるつるの雪玉だ」
今度は亜理紗ちゃんが雪のおまんじゅうを頭に乗せて、落とさないようにバランスをとりました。
「なにそれ?」
「たんこぶ」
知恵ちゃんが亜理紗ちゃんのたんこぶをとって、つもった雪の上に戻します。すると、亜理紗ちゃんは近くの雪を集めて、ごろごろと転がし始めました。
「ちーちゃんも、雪だるま作ってちょうだい」
言われるがままに知恵ちゃんも亜理紗ちゃんとは別の雪玉を転がし、それぞれ1個ずつ手ごろな大きさの雪玉を完成させました。亜理紗ちゃんは雪玉の表面に、たくさん雪のおまんじゅうをくっつけていきます。
「アリサちゃん。なにこれ」
「サッカーボール」
「でこぼこしてる……」
サッカーボールの黒い部分をおまんじゅうで再現しますが、全て白色なので知恵ちゃんにはうまく伝わりません。でこぼこした雪のサッカーボールを持ち上げて、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの作った雪玉の上に乗せます。
「これは何?」
「サッカーボールマン」
「……誰なの?」
亜理紗ちゃんが謎のキャラクターを完成させたところで、雪のおまんじゅうは使い終わってなくなりました。もっと雪のおまんじゅうを作りたい亜理紗ちゃんでしたが、ふとひっくり返したままのバケツを思い出します。
「もう雪が出てきたかもしれない」
雪をつめて出て来なくなったまま、逆さにされて置かれていたバケツを持ち上げます。その中に何かあるのを発見し、亜理紗ちゃんはサッカーボールマンを見ている知恵ちゃんを呼びました。
「……ちーちゃん。これ」
「……んん?」
持ち上げたバケツの中には押し込んだ大量の雪はなくなっていて、その代わりに雪で出来たおまんじゅうが1つだけ入っていました。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんと顔を見合わせ、再確認するように雪のおまんじゅうを見つめます。
「ちーちゃんが入れた?」
「ううん……」
そっと持ち上げたバケツを戻して、おまんじゅうをバケツの中にかくしてみます。それから、また亜理紗ちゃんはバケツを持ち上げました。さっきまでは1個だった雪のおまんじゅうが、バケツの中で2個に増えていました。
「……ちーちゃん。マジックで増やした?」
「ううん」
その41の3へ続く






