その41の1『プリンターの話』
「あけましておめでとうございます」
「……あけましておめでとう。どうしたの?」
年が行き、新たな年がやってきます。1月1日の朝、年賀状を持った亜理紗ちゃんが知恵ちゃんの家をおとずれました。手にはハガキを持っていて、それを玄関先にて知恵ちゃんに差し出しています。
「ちーちゃんの家は近いし、自分であげにきた」
「寒いのに……」
「寒い。すごい寒い」
空からは今も雪が降り続いていて、家の周りは積もった雪で白く染まっています。外では亜理紗ちゃんのお父さんが雪かきをしており、ソリに雪を山ほど積んでは、近くの広場に運んでいきます。亜理紗ちゃんの年賀状は手書きの絵が描かれていますが、絵よりも文字の方が圧倒的に多くて、知恵ちゃんは小さな文字に目を細めています。
「アリサちゃん。昨日はすき焼きだったの?」
「そう」
年賀状を書いたのが今日の朝なので、昨日の夜の事まで詳細に記載があります。また、亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家から届いた年賀状も持っていて、でも年賀状の差し出し主がお父さんの名前なので、実は知恵ちゃんの名前では亜理紗ちゃんの家に年賀状を出していません。
「一応、絵は私が選んだけど」
「これ、かいたんじゃないんだ?」
「プリンターで印刷しただけ」
知恵ちゃんの家から送った年賀状はイラストが印刷されたもので、横に少しだけ知恵ちゃんの書いた文字が入っています。とはいえ、毎日のように亜理紗ちゃんとは会っているので、そこまで改めて書くことはなく、年賀状の定型文が丸っこい文字で書かれています。
「ちーちゃん。今日、どっか行くの?」
「明日、おじいちゃんの家に行くけど、今日は何もない」
「雪遊びする?」
「うん」
今のところはテレビも見たい番組がないので、知恵ちゃんは亜理紗ちゃんと一緒に雪遊びをすることにしました。亜理紗ちゃんは知恵ちゃんの家から届いた年賀状を見ながら、どんな遊びをしようかと考えています。
「ちーちゃん。じゃあ、プリンターごっこしよう」
「なにそれ?」
「入れ物を持ってきて、雪を入れて遊ぶ」
亜理紗ちゃんの考えついた遊びに、いまいち知恵ちゃんはピンときておりません。でも、雪を入れる入れ物があればいいという事だけは解ったので、それを家の中から探し出し、厚着に着替えてから亜理紗ちゃんの家の前へ向かいました。
「どうやるの?」
「まず雪を入れる」
亜理紗ちゃんは持ってきたバケツに雪をいっぱいに入れて、雪が固くなるまで上から押していきます。そして、バケツをひっくり返して中の雪を取り出そうとするのですが、いくらバケツの底を叩いても雪が出てきません。
「……あれ?」
「……?」
亜理紗ちゃんはバケツの形に固まった雪を取り出したいのですが、なかなか出てきてくれません。そんな様子を見て、やっと知恵ちゃんもプリンターごっこの意味を理解しました。どうしたら詰まった雪が出てくるのか、知恵ちゃんも考えます。
「水とか入れてみたら?」
「そっか!」
知恵ちゃんのアイディアを受けて、亜理紗ちゃんが庭にある蛇口の栓をひねってみます。でも、蛇口からは水も出てきません。
「……あれ?」
「中で凍るとダメだから、水は止めてるんだ」
庭の水道は止めてあると、お父さんに教えてもらいます。すると、亜理紗ちゃんは手袋をぬいで、近くにあった雪をにぎりしめました。
「アリサちゃん……なにするの?」
「手で溶かして水を作る」
「ムリしないで……」
その41の2へ続く






